導入➀
HO:公安

公安警察とは、国益侵害になるような組織、国際犯罪に対し、諜報・取り締りを行う者である。

01. 内戦区域:ホテル

― 嘉羽 羊介とPMC ―

ホテルの一室に、カチャカチャと複数の機械音が鳴っている。
室内においても、硝煙のにおいが薄く漂うファミリータイプの部屋で、軍服を着た3人が銃器のメンテナンスを黙々と行っているのだ。
軍人たちは、部屋に入ったあなたに対し、多様な視線で出迎える。
大柄でベテランの雰囲気を纏わせる中年の男は、あなたの能力を見定めるように視線を上下させた後、作業に戻る。
快活そうな女軍人は、あなたに軽い笑顔を向け、作業の片手間に空いた手を振っている。
軍服と銃器に見合わぬあどけない少年兵は、あなたを一瞥すると、その横に立つ男に視線を流す。少年兵が視線を向けた男は、場にそぐわぬ軽装の日本人だ。

嘉羽

「はじめまして。僕が『嘉羽 羊介』です。初日から危険地帯に呼び出すことになってしまい、申し訳ございませんでした」

あなたが嘉羽に抱く最初の印象は‘‘怪しい‘‘だ。
それは、あなたの任務から来る先入観によるものではない。
嘉羽の怪しさは、表情でも、挙動でも、犯罪者特有のものでもない。
面妖と呼ぶにはあまりにも輝度が高く、神秘的と呼ぶには邪悪。
そんな感想を抱く男だ。
あなたが初対面の挨拶を終えれば、嘉羽は3人のPMC(民間警備会社)を紹介する。

嘉羽

「こちらは、僕の護衛をしてくださっているPMCの皆さんです。ヘカートさんは一見怖そうですけど、実は子供好きの陽気なオジサンですので、怖がらずに接してあげてください。ルルさんは、見たまんま元気なお姉さんです。ただ、爆弾のスペシャリストなので、美人だからって彼女のベッドに近づくと、爆発しちゃうかもしれませんから気を付けてくださいね。ユハは無口ですけど、とても賢い子です。それに、そこらの軍人より強いんですよ」

あなたが嘉羽の紹介を真に受ければ、ルルと呼ばれた女軍人が嘉羽に抗議の声をあげた後、あなたに接してくる。

ルル

「おい待てぇヨースケ!それが広まって本当に誰も寄ってこなくなったらどうすんの!大丈夫だからね?!いや、ベッドに来て欲しいわけじゃないけども!私はルル・カルコル。ルルでいいよ。よろしくね」

そう言って、彼女はあなたに握手を求めてくる。
気さくに接してくる様子から人柄の良さが伺えるだろう。
銃器のメンテナンスをしながら話しを聞いていた、ヘカートと呼ばれたベテラン軍人は、作業の片手間に茶々を入れてくる。

ヘカート

「嘘とも言い切れないだろう?代金踏み倒そうとしたゲリラを娼婦のフリしてベッドでドカンとやってたじゃねえの」

銃器のメンテナンスを終えたヘカートは「よっこらせ」と、中年らしい掛け声と共に立ち上がり、「うるさいおっさん!」と叫ぶルルを無視して、あなたに挨拶をする。

ヘカート

「ヘカート・フロッガーだ。元は日本の自衛官だったそうだな。働きに期待している。PMCとして君を雇用しているのは俺ってことになっている。まぁ、俺たちはヨースケの私兵みたいなモンだから、実質のボスはアイツだ。だから給料の文句とかはヨースケに言ってくれ」

大柄なうえ、鍛え抜かれた肉体が軍服越しにも分かる為、目の前に立たれるとかなりの迫力だ。
しかし、語り口や表情も柔らかく、良い上官になりそうな人物だと感じるかもしれない。

これらの会話を挟めば、私兵達のおおまかな人柄が把握できるだろう。
唯一、あなたとコミュニケーションをとらないユハと呼ばれていた少年兵は、雑にあしらわれて不服そうなルルに、ペットに癒しを求めるように絡まれている。
ユヘは、あなたに対し無表情で見つめている。

あなた達が、一通りのコミュニケーションをとったことを確認した嘉羽は、パンっと柏手を一つ鳴らす。

嘉羽

「さて。仕事の時間です」

嘉羽がそういうと、直前までのカレッジサークルのような空気が引き締まる。

嘉羽

「お得意様の反体制派との商談にフラれてしまいました。原因を調べたところ、イスラムのカルトが反体制派の財政難に付け込んで、粗悪品を安く売りつけているようです。邪魔なので潰しちゃいましょう。先日、シリア政府軍に無人航空爆撃機を売っちゃいましたから、早く対空兵器を売ってあげないと負けちゃいますしね。ここを潰して、僕が戦力を均衡化すれば、しばらく泥沼の戦況が続くでしょう。カルトのディーラーは、十数人の護衛と行動していますが、全員チンピラ上がりです。早く終わらせて、お隣のトルコで本場のケバブを食べに行きましょう。{HO1}さんは僕の護衛です。それでは、状況を開始してください」

私兵達

「「「了解」」」

私兵達の応答を合図に、完全武装したあなた達は、カルトが潜伏する飲食店に向かう。

探索者の装備

探索者の装備は防弾チョッキ(装甲+6)と、あらかじめ嘉羽が用意していた、探索者が最も得意とする銃火器を支給される。武器商人だから基本なんでもある。
今回は、要人護衛の観点からLMG(マシンガン)、SR(スナイパーライフル)は推奨されない。
拳銃、AR(アサルトライフル)、SMG(サブマシンガン)、ナイフから選ぶと良いだろう。
主に軍事利用されているものから採用するとリアリティが増すかもしれない。

02. 内戦区域:飲食店

― カルトの殲滅 ―

彼らの戦闘は、制圧戦のお手本のようだ。
見張りを近接で無力化し、若干の物音に吊られた入口近辺の兵を爆弾で一掃する。

ルル

「ホールクリア」

圧倒された奥にいる兵たちは、すぐさま武器を取り応戦を試みようとするが、その一瞬でヘカートとユハがARで殲滅する。

ユハ

「カウンタークリア」

ヘカート

「バックヤードクリア」

本当に掃除をしているだけのような戦闘だと感じるだろう。
【SANc 0/1D3】
全員のクリアリング報告の後、嘉羽が店内に入る。
護衛の任を言い渡されたあなたは、命令違反をしたい訳でなければ同行するだろう。
嘉羽は店内をぐるっと見渡すと、奥に横たわる一見して死体の男を指差し、3人に指示を出す。

嘉羽

「そこで倒れている男、生きてますから残しておいてください。雇い主を吐かせます」

この時、あなたが気を抜いていない耳聡い探索者であれば、店外からやってくる足音に気付けるかもしれない。
店外からやってきた男は、偶然出かけていた者だったようで、状況に驚きながらも手持ちの銃器を発砲しようとする。
あなたは、遅れてきた男のDEX12と対抗で勝利した後、任意の銃器技能に成功しなくてはならない。

成功すれば、最後の一人を撃退することができるだろう。
この場合、嘉羽は「流石ですね」と探索者を賞賛する。
人の心を読むことに長けた探索者であれば、嘉羽は探索者よりも先に気付いていたように思うかもしれない。

失敗した場合は、カルトの銃撃を受けてしまい、1D10+2のダメージを負う。
この場合、嘉羽は「皆が凄いからって気を抜いちゃだめですよ」と、探索者を軽くたしなめ片足を踏み鳴らす。
すると、先の爆発で脆くなっていたのか、唐突に男の足元の床が抜けることで大きな隙を生む。
あなたは、この間に任意の銃器を発砲するチャンスを得られる。
この時、男は身動きが取れない為、成功率に+20%して良い。

カルトを制圧すると、嘉羽は生き残りの男の前にしゃがみ、尋問を始める。

嘉羽

「手っ取り早くいきましょう。どこの指金ですか?教えてくれたら、治療して祖国に帰してあげましょう」

カルトの男

「誰の命でもない。強いて言えば使命感だ。我々は終末をもたらす神の御前に、多くの屍を積まねばならない。本来、地球の支配者は人間ではないのだ」

失血のせいか、うわごとの様に意味不明な言葉を並べた男は、大きく血を吐き、目を見開いて狂気的に叫ぶ。

カルトの男

「イア イア グノス=ユタッガ=ハ! イア イア ツァトゥグァ!」

嘉羽は、あきれたように立ち上がり「もういいです」と言うと、ヘカートがカルトの男の額を打ち抜き、薬莢の跳ねる音が店内に響く。
少しの静寂の後、嘉羽がパンっと柏手を鳴らす。

嘉羽

「お腹すきましたね!こんなとこ早く出て、ご飯食べにいきましょう!」

緊迫した空気が解け、ヘカートとルルは「イエーイ!」と言いながら後についていく。
ユハは、あなたが嘉羽に付いていくまで、じっと探索者を見つめているだろう。

03. 安全地帯:レストラン

― 私兵達との交流 ―

内戦区域を抜け、トルコに移動したあなた達は、先の予定通りトルコ料理店で打ち上げをしている。未成年であるユハを除いた、私兵の二人と嘉羽は酒も飲んでいるようだ。
私兵達は、あなたとの距離を縮めようとコミュニケーションを取ってくる。ユハ以外。
以下は、会話の例として記載するが、話しの展開に合わせて自由に改変していい。

ルル

「あらためてよろしくね~!日本ってヨースケと一緒だよね?いいな~日本!ご飯は美味しいし、漫画は面白いし、※男は誠実なんでしょ?日本に住もうかな~」

ヘカート

「米軍時代にヨコスカに寄ったことがあるが、平和な国だったな。武器を持たない子供が暗くなるまで遊んでいた。コンビニの場所が分からず困っていたところ、言葉が通じないのに一生懸命案内してくれたよ」

しばらく会話をしていると、嘉羽は先にホテルに帰ると言い、ユハを護衛に連れて店を後にする。ルルとヘカートは酔って饒舌になっているようだ。
探索者が望むのであれば、二人の嘉羽に対する印象や、倫理観について話しを聞けるかもしれない。

嘉羽 羊介について

ルルとヘカートは特殊部隊所属の経験から、上官、今回の場合は契約要人の指示は、各国の法に触れていない限りは全面的に従う方針でいる。

その上で、ルルであれば単純な印象を話すだろう。
ヘカートは、横須賀駐留経験から日本が世界で見ても平和な国であることをよく理解している。
よって、圧倒的暴力を目の当たりにしたばかりの探索者の感情を尊重した言葉をくれるだろう。
以下は一例である為、キーパーの解釈で自由に回答すると良い。

ルル

「ヨースケはとにかく頭が良いよね。たまに未来予知でもできるんじゃないかって思う時があるよ」

ヘカート

「君が何を聞きたいかなんとなく分かるが、俺は根っからの仕事人でなぁ。契約者であるヨースケが善人だろうと悪人だろうと俺には関係ないのさ」

倫理観

この二人がどのような考えで殺人を受け入れているのか尋ねたくなる場合があるかもしれない。
それについて、彼らの回答はシンプルだ。
ルルであれば『やらなきゃやられる』。ヘカートであれば『仕事』。
この二点につきるだろう。

ルル

「あまり考えたことないけど、良いことしてれば長生きできるわけじゃないことはわかるよ。私が人を殺せなかったら、今頃私が死んでるからね」

ヘカート

「月並みだが、善悪の基準は状況と視点でコロコロ変わることだけは間違いない。戦場に長くいた俺は、そこを軸に考えてたらやっていけねえってな」

あなたの歓迎会を兼ねたディナーは、ルルが酔いつぶれたところでお開きになる。
酒に強いヘカートがこの場を占めてくれる。

公安が潜入した1年間

あなたは、初日のカルト殲滅から1年間、私兵達と共に世界を飛び回り、嘉羽の商談に同行し続けることになる。
武器商人に敵は多い。ライバル武器商人から、敵対国への武器流入を阻止しようとする軍隊、現地のテロリストまで様々だ。
あなたと私兵達は、それらを撃退し続け、多くの死体を生み出すだろう。
【SANc 0/1D10(発狂無し)】

嘉羽は、武器の供給を巧みにコントロールして、より人々が武器を求めるように誘導しているようだ。
これらの体験から、嘉羽をどう評価するかは探索者に委ねられる。
各国の警察組織は、表面では嘉羽を追いながらも、犯罪組織の戦力を知る嘉羽から情報提供を受けている為、どこも手を出さない。
もし、日本の法を基準に善悪を分けていた探索者であれば、一度己の価値観を見直すことになるだろう。
また、あなたが嘉羽を絶対悪と定めても、正攻法で取り締まることは難しいと分かる。

04. 神宮前:デパートの屋上

― 日本人の少女 ―

潜入してから約一年経った今、あなた達は偶然日本に来ている。
在日米軍との商談を終えた後、ルルの要望でデパートに来たあなた達は、ルルと強制的に連行されたユハを放って、屋上で時間をつぶしているところだ。

目敏い探索者であれば、柵を乗り越えて自殺を試みる中学生の少女を見つけることができるかもしれない。
あなたかヘカートがそれを止めることができれば、事情を聴くことができる。
探索者が尋ねないのであれば、子供好きのヘカートが代わりに事情を聞こうとするが、彼は日本語がしゃべれないので、探索者に通訳を依頼する。

少女

「クラスの皆が頭おかしくなったの。最初は一人だけだった。けど一人、また一人と徐々に増えていって、遂に私だけになっちゃった。みんなおかしな本を読み始めて、全員が私を無視するようになった。それに、私もそろそろおかしくなる。最近、夜に勝手に歩き回ってるみたい。頭に虫の羽音が聞こえる。それは徐々に大きくなって、頭が割れそうに痛いの」

見るからに寝不足で、頭痛のストレスも相まって、かなり衰弱していることが分かる。
簡単に解決できることでは無さそうで、ヘカートはどうしたもんかと考え込んでいる。
これは探索者も同じだろう。
すると、二人の様子を見ていた嘉羽が少女に声を掛ける。

嘉羽

「君が死ぬ必要は無いよ。君の命は、頭のおかしくなったクラスメイトよりずっと重い。もし君が状況を打破したいのなら、僕がその方法を教えてあげよう」

少女は、嘉羽の問いに虚ろな目で頷く。

嘉羽

「よし、じゃあついておいで。{HO1}さん。すみませんけど、ユハとルルさんを連れてきてください」

探索者が探しに行くと、ユハに荷物を持たせたルルが服を買い込んでいる。
起きたことを説明すれば、買い物を切り上げて合流してくれるだろう。

05. 横須賀海軍施設

― 横須賀海軍施設 ―

嘉羽は、探索者達を引き連れ、横須賀海軍施設に含まれる海沿いのコンテナの一つに入る。コンテナと言っても、中は体育館ほどの広さがあるようだ。
嘉羽は、商品の銃を一丁とって、少女に持たせる。

嘉羽

「君のクラスメイトの頭には、虫が巣食っているんだ。虫は勝手に人を操って、悪い事をするんだよ。そして、放っておいたら、他の生徒や先生、君のご両親まで乗っ取ってしまう。君はみんなを助けてあげたい?」

少女は、再び虚ろな目で頷く。

嘉羽

「じゃあ虫を殺さなきゃいけないね。虫は頭に棲んでいるから、頭を潰せば良い。大丈夫。人を殺すなんて思わなくていい。虫が付いた胡桃を割っているだけだ」

少女は虚ろな目に歪んだ生気を取り戻し、決意を固めた表情で嘉羽に向きなおる。

少女

「私は胡桃を割って、虫を殺して、皆を助けます」

嘉羽

「偉いね。皆さん、この子に使い方を教えてあげてください。帰るのが遅くなるといけないから夕方までにね」

私兵達は、これを指令と捉え、少女に銃の扱いを教え始める。
探索者がこれに参加するのであれば、銃器技能を使用することで、少女の技能成長を促すことができるかもしれない。
嘉羽と私兵達は、時間の許す限り、様々な殺害方法を教える。
武器と悪意を知り尽くした男と、殺しのプロによる訓練は、半日であっても少女の技術を十分に成長させることになる。
パンザマストが鳴ると、皆は訓練を切り上げ、少女を街まで送り届ける。
銃の扱いを叩き込んだわりに、肝心の銃は持たせないようだ。
しかし、別れ際に嘉羽は少女を呼び止める。

嘉羽

「3日後の朝、登校前に逗子海岸の防波堤に寄ってごらん。ドロッセルマイヤーから、君宛てに胡桃割り人形が届くはずだ」

少女はお礼を言い、歪んだ勇気を持って帰路につく。

嘉羽

「さて、残業させてしまいましたね。明日の夜には日本を発ちますが、それまで休暇にしましょう。日本は安全ですから、護衛はユハだけで大丈夫です。{HO1}さんは母国ですし、会いたい知人とかいるんじゃないですか?」

私兵達は、探索者が行動を共にしようとしなければ、
各々自由に夜の街に消えていく。

嘉羽達に反対する場合

探索者の倫理観によっては、任務に支障をきたしてでも反対することがあるだろう。
その場合、それぞれ以下のような理由で、あなたの反対意見を聞き入れない。

嘉羽

「では、彼女を放っておきますか?「クラス全員が頭おかしくて私だけが正常です」という通報に対応する警察は日本に存在しません。我々は明日に日本を発ちます。よって彼女が自身の力で状況を打破しなくてはなりません。協力が難しいのなら、見て見ぬふりをしてください。あなたは何も悪くない」

ルル

「私はこのくらいの歳に殺されそうになった時、相手を撃つことで助かったからね。止める理由は無いよ」

ヘカート

「思うところはあるが、嘉羽の指令、目の前の子供の命。俺には止める理由が無いな」

ユハ

「命令ですので」

参加しない場合であっても、嘉羽や私兵達が探索者を咎めることは無いし、以降の探索者に対する態度に変化はない。
しかし反旗を翻す場合、嘉羽に銃を向ければ、私兵達は探索者を敵として処理する。
逃げ出すのであれば、公安としての任務も放棄することになり、以降、嘉羽に関する情報が探索者に入ってくることは無い。
再び、日本の公安警察として別任務を与えられ、日常に戻ることになる。

06. 定期連絡

― 伊角係長への報告 ―

スパイであるあなたは、可能な限り経過報告をしなければならない。
海外を飛び回っていたあなたは、やっと報告の機会を得る。
あなたは、この一年の体験と自身の考えを整理してから、あなたの本来の上司である外事課の課長『伊角 兜』との会話に望むべきだ。連絡手段は電話でも対面でもいい。

伊角

「久しぶりだな!元気そうで何よりだ。早速報告を聞かせてくれ」

探索者が報告を終えれば、課長は最後に質問をしてくる。

伊角

「君から見た嘉羽の印象を教えてくれ。職務を抜きにした率直な意見が聞きたい」

この質問に正答は無い。
探索者がどんな感想を述べても、課長はそれを尊重してくれる。
いずれの場合も、課長は探索者の任務終了を言い渡す。

伊角

「よし!一度戻ってこい!再び接触できるように、当たり障りない理由で退職してくれ」

抗議をすることは可能だが、結局職務上この指令を拒否することはできないと分かって良い。

07. 成田空港

― 嘉羽と私兵達との別れ ―

あなたが退職の意思を示すと、嘉羽はあっさり了承する。

嘉羽

「分かりました。短い間でしたがありがとうございます。せっかくの戦闘力ですから、また食いぶちに困ったら連絡ください」

私兵達は、少なからず探索者に情を感じている。
皆、別れを惜しんでくれるだろう。

ルル

「えーー!なんで?!もっと一緒に仕事しようよ~!」

ヘカート

「俺はビジネスとして社員の意思を尊重するが、君という戦力と良き友人を失うのは惜しい。また戻りたくなったら、いつでも歓迎しよう」

ユハ

「・・・お元気で」

この一年間、殆ど意思を示さないユハですら、探索者の袖を引きつつ見送ってくれる。
こうしてあなたは1年の潜入任務を終えた。
1ヶ月の長期休暇を貰い、しばらく平和な日本の生活を謳歌できる。

一人の女子中学生が、クラスメイトを皆殺しにする事件を見るのは、それから3日後のことになる。

導入➁
HO:刑事

刑事とは、個人の生命、身体及び財産の保護を主目的に、それを侵害する犯罪に対し、諜報・取り締りを行う者である。

08. 千代田区:車中

― 通報 ―

『女子中学生がクラスメイトを銃殺している』
そんな前代未聞の通報から一日が始まったあなたは、バディである『音子伽 康里』と共に、現場に急行するところだ。

音子伽

「絶対誤報かイタズラですよ。近くの交番巡査に任せて良くないですか?」

音子伽は、ブツブツ文句を言いながら車を運転している。
これを嗜めるかどうかは探索者次第だが、疑いたくなる通報であることは間違いない。

音子伽

「誤報で思い出したんですけど、ドッペルゲンガーの噂知ってます?」

通報を真に受けていない音子伽は、関係の無い話を振ってくる。

音子伽

「いや、聞き飽きたネタなのは俺だって分かってますよ。ただ、服役中のはずの受刑者を街中で見たっていう通報が複数件あったらしいんです。勿論そいつはちゃんと刑務所にいるって話です!」

探索者が興味を示せば信じてくれたことに喜び、ただの人違いだと相手にしなければ「あぁ、全然信じてないっすね」等と言ってふてくされる。
そんな無駄口をたたいてる間に現場に到着するだろう。

09. 青塚中学校:校庭

― 異常事態 ―

音子伽の予想に反し、現場はパニック状態だ。
生徒たちが叫びながら降車から飛び出してくる。

先に駆け付けた交番巡査がいるが、避難誘導で手いっぱいのようだ。
この巡査に話しを聞いても、到着したばかりで正確に把握できていない。
彼が現時点で分かることは、生徒がパニックで校舎から出て来る事と、3階の教室から発砲音とは言い難い‘‘銃撃音‘‘が聞こえることだ。
3階を見上げれば、教室の窓が大量の血で濡れていることが分かる。

直後、銃撃音が響く。
その銃撃音は、身近なものに例えるなら工事現場の転圧機(アスファルトを固める機械)に近く、警察官が使用するハンドガンのよう銃ではないと気付けるだろう。
銃器に詳しい探索者であれば、ARが使用されたことが分かるかもしれない。

直後、現場を目撃した生徒が探索者に縋り付き、気を動転させながらも必死に訴えかける。

女生徒

「夏目ちゃんが!大きな銃で皆を殺してる!みんな頭が...あt...ウッ...。刑事さん!なんとかしてください!」

生徒は胃から込み上げる吐瀉物を必死に抑えている。
この生徒の様子から、3階の教室での惨事は想像に難くない。あなたは急ぎ現場に向かうべきだ。
二の足を踏んでいれば、音子伽に急かされて窓が血濡れたの3階の教室に向かうことになる。

10. 青塚中学校:教室

― 凄惨な殺害現場 ―

あなた達が辿り着いたとき、教室は血の海だった。
床を覆いつくす血液と脳漿の上に、ARを持った少女が立っている。
床に転がっている数十の死体は、全て頭部がはじけて原型を留めていない。
【SANc 1/1D6】

探索者が状況を把握した時、唯一頭部が残った生徒に、少女がライフルの引き金を引くと、最後の生徒の頭部が弾ける。
【SANc 1/1D4】
あなた達が駆け寄る頃には、少女はARを落とし、達成感に満ちた顔をあげる。

夏目

「自殺なんかしなくて良かった!皆がおかしくて、私だけが正常だったんだ!」

それは、一見狂気に飲まれた人間の発狂でしかないはずだが、
人の観察が得意な探索者であれば、彼女の目の光は純粋な達成感から発せられるものだと感じるかもしれない。
探索者が動かなければ、音子伽が代わりに手錠を掛け、時計を確認する。

音子伽

「10時10分、殺人の現行犯で逮捕します・・・」

いずれの場合も、音子伽は現場の様子に多くの疑問点があることから釈然としない様子だ。
逮捕した少女は、一切抵抗せずにあなた達の指示に従う。

教室を出る際、目敏い探索者であれば、ニワトリ程の大きさのハエが、教室から飛び立つのを見るかもしれない。
一瞬のことで、目を疑うような現象であることから、大きな正気度喪失は起きない。
【SANc 0/1】

見ることが叶わずとも、耳聡い探索者であれば、虫の羽音を聞けるかもしれない。
あなた達は、少女を警視庁の留置所へ連行することになる。

11. 警視庁本部庁舎

― 事件捜査 ―

逮捕後捜査が開始される。
探索者達刑事は、青塚中学校での大量殺人事件について、起訴、不起訴の判断を下す検察に提出する‘‘証拠資料‘‘を集めなくてはならない。
最低でも‘‘供述調書‘‘の作成をするため、被疑者である『夏目 佐子(15)』に取り調べをせねばならない。
今回のケースは、現行犯逮捕であることから、夏目が容疑を否認しない限り、その他の現場検証等は鑑識課に任せてもいい。
事件に違和感を感じるのであれば、拘留請求が受理されてから最低10日、最長20日間で、自由に捜査すると良いだろう。
どのように捜査するかは、探索者の刑事としての判断に任せられる。

警視庁

庁内には、鑑識課に夏目の押収品が保管されており、凶器の指紋などは採取されている。
夏目の身柄は、逮捕当日より裁判所から拘留請求が認められることで、庁内の留置所に拘留されている為、いつでも夏目への取り調べが可能になる。
供述調書は、事件の担当になった探索者か音子伽が作成する必要があるので、取調室に行くと良いだろう。

また、鑑識課に夏目の押収品が保管されており、凶器の指紋などは採取されているころだ。

被疑者取り調べ

取調室に座る夏目は、犯罪者らしい異常性も無ければ、不良感すらない。
普通の女子中学生と対峙しているようだと感じるだろう。
夏目は、あなたが行う取り調べに対し、真摯に回答していく。

Q.何故クラスメイトを皆殺しにしようとした?
A.皆の頭がおかしくなってしまったから。
Q.上記質問について詳しく
A.ある日を境に、クラスメイトの数人がおかしな本を読み始める。その人数は次第に増えていき、事件前日にはクラスメイト全員が無視するようになった。自身もおかしくなる予兆があり、意思に反して夜に勝手に歩いたり、皆と同じように身に覚えのない本が私室に置かれていたりした。近日は頭に虫の羽音が聞こえだし、その音は日に日に大きくなり、耐えがたい頭痛に襲われた。
Q.おかしな本はどうした?
A.正常なうちに捨てた。
Q.ARはどこで入手した?
A.逗子海岸でドロッセルマイヤーさんから貰った。
Q.ドロッセルマイヤーさんとは?
A.容姿は知らない。「〇日(事件当日の朝)に逗子海岸に行けば、ドロッセルマイヤーさんからプレゼントが届く」と言われ、実際に足を運んだと同時に自身の目の前にARが入った荷物が海から流れてきた。
Q.どこで銃器の扱いを覚えた?
A.親切な人達が教えてくれた。容姿端麗な日本人青年、(HO:公安の特徴)、外国人の中年男性、20代ほどの女性、自身と同年代の少年。名前は知らない。
Q.その人達から銃を貰った?
A.違う。
Q.逗子海岸へ行くように示唆したのはその人達?
A.そう。
Q.その人たちとの出会いは?
A.自殺しようとした私を止めてくれた。
Q.大きなハエを見なかった?
A.クラスメイトを殺戮した際に何匹も幻視した。
Q.そのハエを殺した?
A.流れ弾にあたり、飛び散ったものが数匹いたような気がする。
Q.なぜ正常なまま犯行に及ぶことができたのか
A.虫のついた胡桃を割るだけだと考えている。
Q.なぜ警察に相談しなかったのか
A.交番巡査に相談したことがあったが、話半分に対応され、児童相談所を紹介された。

鑑識課

現場や押収品の鑑識結果を聞く場合、特筆すべきは凶器のARについた指紋と、犯行現場に散らばる昆虫のような肉片だろう。
ARからは、被疑者である夏目の指紋と、抵抗したクラスメイトの指紋しか検出されていない。
昆虫の肉片に関しては、実在の昆虫と照合するのに20日以上かかる上に、事件との関連性が薄い為、調査は打ち切られている。
もし、探索者が無理を通せば、夏目の拘留期間内に間に合わないことを前提に調べてくれるかもしれない。

押収品

押収した夏目の所持品を調べるのであれば、凶器のARと、十分な数の弾薬が異彩を放っている。
夏目の供述からICカードの履歴を調べれば、確かに最寄り駅と逗子駅の往復履歴が残っている。

12. 青塚中学校:事件現場

― 現場検証 ―

夏目の供述や、巨大なハエを幻視したことに違和感を感じ、再度現場を見行くことがあるかもしれない。
改めて事件現場を見ても、当時の悲惨さが薄れる様子はない。
事件当日から数日の間であれば、現場保持の為に、大量の血液と脳漿が流されずに放置されているだろう。
鑑識課の刑事が複数人で、血液や弾痕から採取を行っている。
鑑識課の刑事に、変わったことが無いかと尋ねれば、やけに虫の死骸のようなものが多いように思うという話しを聞ける。
この情報は現場に行かずとも、鑑識課に行けば同じ話が聞ける。

全ての生徒の机中に『Messa di Requiem per Shuggay』というタイトルの写本が、教科書の如く当たり前に入っている。
表紙を翻訳すれば、イタリア語で『ミサ・ジ・レクイエム・ペル・シュジャイ』と書かれていることが分かる。全文を翻訳するにはかなり時間が掛かりそうだ。

魔道書『Messa di Requiem per Shuggay』(写本)

事件現場で生徒たちが持っていた本は、イタリア語を習得していない探索者では、通常業務をこなしながら20日以内に解読できるような代物ではない。
だが、イタリア語が堪能な警察官などに解析を任せるのであれば、その者は2週間ほどで大まかに理解するだろう。

探索者が解読した洋書の内容を開示するように言えば、その者は一度拒否するだろう。
それは、冒涜的で不快な内容であり、事件との関連性があまりにも薄いからだ。
その者なりのやさしさで伏せている。
無理やり聞き出すのであれば、堕落した関係と性交について記載されたオペラの台本であると教えられるかもしれない。それらは儀式めいており、悪魔崇拝のようなものだと注釈するだろう。

この解読を任せたのが、事件を知る刑事であれば 「この本を夏目以外のクラスメイト全員が読んでいたのだとしたら、正常なのは夏目の方だったのかもしれない」 と呟く。

13. 被疑者宅

― 事情聴取 ―

被疑者の両親から話しを聞くのであれば、母親から事件当日までの数週間の様子を聞くことができる。

母親の証言

・始めは学校から帰るたびに元気がなく、イジメでも起きたのかと思っていたが、どうも様子が違うと感じていた。
・元気がない理由を尋ねても、皆の頭がおかしくなったとしか言わず対応しかねていた。
・事件当日の5日前あたりから、頭痛を訴えるようになったことから、市販頭痛薬を服用していた。
・3日前あたりから、深夜に起きて机に向かって勉強をするのを見ている。好んで勉強するタイプではないことから、若干の違和感は感じたが、異常とまでは感じなかった。
・事件当日は早朝から登校した。

14. 逗子海岸

― ドロッセルマイヤーの足跡 ―

夏目が嘘をついているとは思えないが、彼女の荒唐無稽の証言をそのまま聞き入れるこ
とは難しいだろう。
自分の目で確かめようとする探索者であれば、逗子海岸に向かうかもしれない。
逗子海岸は、どの時間帯に行ったとしても、まばらな観光客か、地元の住民が散歩して
いるだけだ。
地元の住民に話を聞いても、ドロッセルマイヤー等知らないうえに、怪しい人物の証言
も無い。
しかし、ある程度高齢の者であれば、潮の流れについて知っているかもしれない。

地元民

「ここらは潮の流れのせいか、漂流物が良く流れ着くんだよ。今はメールとかが普及して効かなくなってしまったけれど、昔はボトルメールを拾えたりしたねえ」

15. 警視庁本部庁舎

― 事件解決 ―

最大20日の拘留期間が経てば、夏目 佐子の起訴が決定する。
あなた達がどんな捜査をして、どんな証拠資料を提出したとしても、検察にとっては起訴の後押しにしかならないだろう。
起訴されてしまえば、夏目は被疑者から被告人に変わり、警察の仕事は終わる。

裁判で夏目に下された判決は‘‘死刑‘‘だ。
『未成年であっても、30人以上を銃殺した計画的犯行に情状の余地はない』という検察の求刑がそのまま通る形となった。
夏目は控訴をせず、一審の判決を受け入れたようだ。
夏目が刑務所に収監されたことで『青塚中学校クラスメイト児童皆殺し事件(通称:青塚中学鏖殺事件)』は幕を閉じることとなった。

この事件に対し、探索者がどう思うかは、各キャラクターに任せられる。
バディの音子伽はこの事件の結末に納得がいっていないようだ。

音子伽

「俺らが現場を駆け回って調べてんのに、検察が書類眺めて決めるのおかしくないっすか!納得いかねー!」

等と愚痴るだろう。
もし、あなたが夏目の無実を信じたとしても、一刑事の無力さと、彼女が日本の警察と司法を呪いながら、刑務所で生涯を終えるのだと理解させられるだけだ。

この事件の特別捜査本部が設置され、あなたが配属されるのは本日より1ヶ月後のことになる。

CASE:0
暴行事件

16. 警視庁公安部

― 事件解決 ―

一月の休暇を終えて久方ぶりに出社した{HO1}は、到着早々に伊角から呼びだされる。

伊角

「お前にとってタイミングが良いのか悪いのかわからんが。今日、嘉羽が日本で目撃されたそうだ。連絡来たりしてないか?端末確認してみろ」

そういって、潜入の際に使っていたプリペイド携帯を渡される。
この情報に対しての心情は、探索者によるだろう。
いずれの場合も、携帯を開くと同時に着信が鳴る。
電話の主は嘉羽だ。

嘉羽

「お久しぶりです。所用で日本に来ているので連絡させてもらいました。世間話で終わらせたいところなんですが、{HO1}さんに用があります。お手隙でしたら、今日の17:00に箱根の駒ヶ岳に来てください。細かい位置情報は後ほどメールしますね。一月振りに会えるのを楽しみしています」

公安のあなたにとって、この呼び出しに応じない理由は無い。
もし、難色を示したとしても、伊角が「(ゼッタイ行け!)」とジェスチャーしている。
箱根へ出発するあなたに対し、伊角が以下のような念押しをしてくる。

伊角

「くれぐれも、嘉羽を捕まえようなんて考えるんじゃないぞ。お前の任務は嘉羽と交流を持つことだ。物事には、しかるべきタイミングってのがあるからな」

あなたが、これにどのようなリアクションを取ろうが、指定された地点に行くには、今から急いで向かわねばならない。

17. 箱根:駒ヶ岳

― 嘉羽との再会 ―

駒ヶ岳は、神奈川県足柄下郡にある。
麓に箱根神社があり、頂上には同社の奥宮がある為、ロープウェイが伸びている。
探索者は、指定された箇所に行く為に、このロープウェイに乗る必要がある。
最終便が17:00である為、ロープウェイで下山するには翌日になってしまうと分かっていい。

最終便には若いカップルの同乗者がおり、一人で登り最終便に乗るあなたを訝しんでいる。
この時、鼻が利く探索者であれば、男性がタバコの匂い、女性が強い香水の匂いを纏わせていることに気付けるかもしれない。
カップルに世間話を持ちかけるのであれば、星空を見るためにキャンプをするのだという。
心を読むことに長けた探索者であれば、女性があまり乗り気でないように感じるかもしれない。

頂上には箱根神社の奥宮がある。
ロープウェイ乗り場から神社までは広い高原となっており、岩肌が露出した箇所には、ところどころに大きな岩が散乱した斜面がある。
同乗していたカップルが、岩肌が露出した箇所でキャンプの準備を始めるのを横目に、指定された箇所へ向かうことになる。

指定された箇所は、頂上から少し下った森の中にある、二階建ての施設跡のようだ。
一見して、周囲に私兵の姿は無く、老朽化した扉が一つあるだけの建物だと分かる。
中に入ろうとすれば、扉の建付けが悪く老朽化している為、かなり力を掛けなければ開かない。力を込めれば(STR15相当)ギギギと不快な音を立てて開く。
一階は屋根が崩れて使用可能な部屋が無さそうだ。
正面には上階へ上る階段があり、二階の広いホールに嘉羽が一人で待っている。

嘉羽

「お久しぶりですね{HO1}さん。東京から遥々ご苦労様です」

聡い探索者であれば、自身が東京から来た事を話していないと気付けるかもしれない。
それについて言及しても「勘です」といってはぐらかされるだけだ。

嘉羽は久方ぶりの再開から握手を求める。
探索者に近づいた嘉羽は、少し首を傾げて雑談を始める。

嘉羽

「{HO1}さんとロープウェイで同乗していたカップルは大丈夫でしょうか。山頂でキャンプでもしたいのでしょうが、ここは夜間侵入禁止区域ですから、後で追い出されてしまうでしょうね。女性は不満がたまっているようですから、破局しなければいいのですが…。仲直りするには男性がタバコを止めるのが手っ取り早いのですが、彼女が嫌がっていることに気付けるでしょうか…」

見ていたのかと尋ねれば「僕はずっとここにいました」と返ってくる。
この人間離れした洞察力を相変わらずだと懐かしむのか、疑問を持つのかは探索者によるだろう。もし、何故分かるのだと質問すれば、推理を明かしてくれる。

嘉羽

「{HO1}さんから、タバコとブルガリの香水の匂いがしました。ブルガリのブラックといえば、タバコの匂いを打ち消すことで有名ですから、彼女が嫌がってるんじゃないかと。登りの最終便で駒ヶ岳頂上に行くカップルの目的なんて、天体観測くらいしかないでしょう。ここは星が綺麗ですからね」

雑談をそこそこに嘉羽は本題に入る。

嘉羽

「公安は、あわよくば僕を逮捕するチャンスを伺っているでしょう?せっかくですから、仲良くなった{HO1}さんに、僕を別件逮捕するチャンスをあげます」

嘉羽は柔和な笑顔で探索者に語りかける。
誤魔化そうとするのは自由だが、探索者の言い訳は、足元の崩落で止められる。
片足が床に挟まり、身動きが取れない。
嘉羽は、回避ができない探索者を殴りつけてくる。
探索者は、その一撃を食らったと同時に、脳が焼けるように熱くなる。
火花が網膜に映り、立つことも抵抗することもできず、膝から崩れ落ちてしまう。
しかし、倒れ込む探索者の首を掴み、横になることを許さない。

嘉羽

「これで微罪が成立しますね。この現場を見る者が来ればですが」

嘉羽は、探索者の目をまっすぐ捉えて呟く。
罪悪感など微塵も感じていない。快楽を感じる様子も無い。しかし無感情というわけでもない。なんなら少し心配しているように感じるかもしれない。

嘉羽

「大勢で来られても面倒だ。1人だけ残って貰いましょうか」

探索者には、この時点で嘉羽が何を言っているのかを理解することはできないだろう。

18. 警視庁刑事部

― 特別捜査本部の発足 ―

青塚中学鏖殺事件の解決から1月後{HO2}と音子伽は、警視(上司)から呼び出される。

警視

「『青塚中学校クラスメイト児童皆殺し事件』に、特別捜査本部が設置されることになった。この特捜部は、該当事件が一人の女児童の力では到底不可能であるとし、犯罪教唆を行った真犯人の捜査をする。担当だったお前たちもこれに加わってもらう」

一度解決とされた事件に特別捜査本部が設置されるという異例の措置だが、探索者にとっては真実を知るチャンスである。
音子伽は「マジすか?!よっしゃー!」と安直に喜ぶだろう。

決尾中学鏖殺事件特別捜査本部

署員の移動手続きを終え、新設された捜査本部は、探索者達を含めた9名の刑事で構成されているようだ。
挨拶もそこそこに情報交換が行われる。
ここで大きく話題にあがるのが『嘉羽 羊介』という日本人武器商人の名だ。

武器商人『嘉羽 羊介』

嘉羽は、世界各国で武器をばらまく、世界的に有名な犯罪者として名が知られている。
夏目が所持していたARは、民間は勿論のこと、暴力団でも入手困難の銃器であった。
日本国内に密輸できる者は限られており、嘉羽であればそれも可能であると考えられる。
しかし、彼を逮捕するのは非常に困難だ。
武器売買が違法である日本で、彼を逮捕できない理由は大きく2つある。
・武器売買が認められている戦地、紛争地域で合法的に取引を行っている
・日本で取引を行った証拠が無い

以上のことから、嘉羽を第一容疑者として慎重に捜査を進める方針になる。
直後、過去に嘉羽の関連が疑われている事件を担当していた広報担当が、電話で「マジ?!」と大声をあげたことで注目を集める。

広報

「嘉羽が今日本にいるとの情報が入りました!場所は箱根駒ヶ岳の山中です!」

千載一遇のチャンスと考えた警視総監は、鑑識1名を除き、総動員で箱根へ向かう指示を出す。
紛争地域も渡り歩く嘉羽は、私兵を雇っている可能性が高い為、銃の携帯も許可される。
此度の接触の目的は、嘉羽に対し任意聴取、あわよくば任意同行を願うこととする。

19. 箱根:駒ヶ岳山中

― 現場包囲 ―

情報があった場所は、箱根駒ヶ岳山中にある二階建ての施設跡だった。
周囲に人影は無く、開いたままの扉が一つある以外、中に入れそうな箇所が見当たらない。

様子の確認をしたのち、事件主任官が配置の指示により、探索者と音子伽が中の様子を確認。
扉が見える範囲に4名、周囲に2名の人員を配置することになる。

探索者達が屋内に入ると、開いたままだった扉が勢いよく締まり、その衝撃で屋根が崩落する。
回避に成功すれば、落下するコンクリートを避けることができるかもしれない。
失敗した場合は、1D6のダメージを受けることになる。

いずれの場合も、横で肉がつぶれる音がする。
音の方を向くならば、音子伽の頭部が潰れているのを目撃てしまう。
身体がビクビクと痙攣しているが、原型を留めていない頭部から察するに即死である。
【SANc 1/1D6】

衝撃を受け入れる余裕もなく、外から配置された刑事達の叫び声が聞こえる。
同時に、上階から人の話し声と、数回の打撃音まで聞こえてくる。
探索者は、どちらを優先して確認するか選ぶことになるだろう。

施設外

外を確認すれば、待機中の4名の刑事が、大岩の下敷きになり身体が潰されているのが分かる。
探索者よりも先に、周囲を警戒していた2名の刑事が、救出を試みようと駆けつけている。

目敏い探索者であれば、大岩に挟まれた者の救出を試みている刑事の背後に、巨体の影が見えるかもしれない。
直後、救出を試みている刑事は、背後から近づく巨体に薙ぎ払われる。
地に伏した刑事は、首があらぬ方向に曲がって絶命しているのが分かる。
【SANc 1/1D4】

刑事を薙ぎ払ったのは、巨体の正体はツキノワ熊だ。
現状、熊は岩の下敷きになって潰れた刑事の肉を貪っている為、探索者に気付いていない。
単騎で熊と戦闘することが危険であること、また、探索者達を除いた刑事は全てて遅れであることを踏まえ、熊と戦闘するか、上階に逃げるかを選択することになる。

【戦闘】ツキノワ熊

施設二階

2階では、暴行された形跡のある{HO1}が、嘉羽に首を掴まれている。
嘉羽は{HO2}を見ると、驚いたような安心したような顔で投降する。

嘉羽

「全く運が悪い。喧嘩しているところを刑事さんに見つかってしまった。現行犯逮捕ですよね?」

そう言って{HO1}を解放し、{HO2}に両手を差し出す。
{HO2}は、とりあえず嘉羽に手錠をかけるしかないだろう。

連行

外に出れば、先に熊を撃退していない場合、熊が刑事の死体を貪っており、あなた達に気付くと襲い掛かってくる。
しかし、嘉羽は手錠を掛けられながらも焦る様子はなく、熊は嘉羽の前で倒れ、絶命する。

嘉羽

「それでは、行きましょうか」

探索者達以外の刑事は、岩の崩落事故と熊の蹂躙で全滅しているようだ。
しかし、{HO2}は、嘉羽の連行をしなくてはならない。
現状の処理については、県警に応援を呼ぶ必要があるだろう。
箱根は神奈川県である為、時間を置いて神奈川県警の刑事が現場を引き継いでくれる。

身分を明かしていない{HO1}も、参考人として警視庁に来てもらうべきだ。
基本、公安警察は刑事にも身分を明かしてはならないが、現場の判断も重要である。
探索者次第では、自身の身分や現状を明かすこともあるだろう。
両探索者の掛け合いは、プレイヤーに任せるのが良い。

{HO1}が身分を明かさないことを選択していると判断された場合、嘉羽は{HO1}の経歴を勝手に話すことはしない。
{HO2}が、{HO1}との関係性を問えば、「友人です」とか「偶然会った他人です」等、{HO1}の都合が良いように話しを合わせる。

いずれの場合も、嘉羽は移送中の車内で{HO1}を殴ったことを謝罪し、両名に対し拘留中の全面協力を約束する。
それは当然、嘉羽の思惑の範囲であることは明白であり、当人も隠すつもりはない。

嘉羽

「殴ってしまって申し訳ございませんでした。お詫びと言ってはなんですが、私が拘留されている間、困ったことがあれば力になりましょう。刑事さんもです」

嘉羽を警視庁まで連行すれば、留置担当官に引き継がれる。
{HO2}は、怪我の度合いによっては警察病院で治療するよう指示されるだろう。
捜査本部は壊滅状態の為、後の動きについては待機を命じられる。

{HO1}は、殴られた軽度の物理的ダメージ以外、身体に異常が無い。
自宅に戻る、伊角に報告に行くなど、自由に行動してかまわない。
いずれの場合も{HO1}は伊角から連絡が入り、事態急変のため、ひとまずの自宅待機を命じられる。

CASE:1
産婦人科爆破事件

嘉羽の逮捕後、待機・療養を終えた探索者達は、※警察庁長官である『獅子園 翆禅』から、霞が関中央合同庁舎第二号館にある執務室へ呼び出される。
一警察官が長官に呼び出されることは異例であると理解するべきだ。

探索者達は、獅子園長官が日本初の女性長官で、現役時代には難事件解決と海外赴任経験もあり、県警本部長を経て着任した女傑であることを知っている。

20. 霞が関中央合同庁舎第二号館

長官室に入り、獅子園の前に立てば、彼女は資料を読む手を止めて探索者達に向き直る。
迫力に圧倒される者がいれば「楽にしろ」と声を掛けられるが、探索者を慮る言葉にすら迫力を感じてしまうかもしれない。

獅子園

「嘉羽 羊介を世界情勢に多大な悪影響を及ぼす国際犯罪者として、逮捕を目指す方針となった。非正規拘束だが、別件逮捕中の今が千載一遇の機会だ。しかし、嘉羽の武器を必要とする各国要人のファンは多い。表立った捜査は妨害が入る危険がある。それに伴い、臨時特命係を設けることにした。お前達にはこれに属し、嘉羽 羊介の不正武器取引容疑を固めてもらう」

この時{HO1}が身分を明かしていなければ、{HO2}は{HO1}がこの場にいることに疑問を覚えるだろう。
その場合は獅子園から{HO2}に対し身分が明かされる。

獅子園

「彼(彼女)は警視庁公安部の外事課だ。嘉羽の私兵として潜入していた経歴もある。現在の嘉羽羊介について日本人で一番詳しい者だ。後で話しを聞くと良い」

続けて、長官は{HO1}の刑事部における仮身分について話す。

獅子園

「青塚中学鏖殺事件特別捜査本部は、署員の殉職により壊滅状態だ。しかし、手続き上解体されていない。これを{HO1}の仮身分として利用する。しばらく君は、警視庁 刑事局 捜査第一課 特別捜査本部の(公安での本来の役職と同格の役職)として行動するように」

探索者達は、嘉羽に聴取をする程度しか現状できそうなことが無い。
しかし、この数日の間に、神奈川県で青塚中学鏖殺事件と類似の殺人事件が起きているという話が聞ける。

獅子園

「先日、横浜市の産婦人科で、医者・看護師合わせて6名が殺害される事件があった。当日勤務していた職員は、院長を含めて皆殺しになっている。容疑者は、被害があった病院に通院中の妊婦。既に県警本部に留置されている。殺害方法は時限爆弾だ。各職員のデスクに時限爆弾が仕掛けられており、点呼の時間に爆発するよう設定されていた。この爆発による通院患者への被害はなかったが、開院前に並んでいた患者の一人が現場を見てしまい、精神病院で定期的にカウンセリングを受けているそうだ。現在、この事件に情報規制を掛け、神奈川県警が秘匿捜査を行っている。教唆をした者が嘉羽でなかった場合、またはその他の協力者がいた場合、犯人に情報を与えることになるからだ。それに、世間の目に晒されれば、実行犯の重刑は免れない。『夏目 佐子』の様にな。県警に話は通してある。詳しい話は県警本部の事件主任から話を聞くと良い。この事件から、嘉羽との関連性を突き止めてこい。質問が無ければ以上だ。下がれ」

探索者が嘉羽の現状を尋ねれば、東京拘置所の特殊独居房に収監されていると聞ける。

獅子園

「東京拘置所の特殊独居房に収監されている。地下最奥に用意された、別件逮捕の非正規拘束者を収監するための独房だ。接見禁止は勿論、複数の刑務官とカメラで、常に監視されている。警察の取り調べは既に行われたが、{HO1}への暴行容疑を認めてから一言も話さないそうだ。君が相手であれば何か話すかもしれないな」

長官はそう言って{HO1}を一瞥する。

事件捜査

以降、産婦人科爆破事件を捜査しながら、嘉羽との関連性を探っていくことになる。
原則、朝・昼・夕(夜)と1か所ずつ探索が可能だ。
同建物内であれば、一度に複数箇所の探索をしても構わない。
また、刑事は危険防止の観点から、基本的には二人一組で行動する。

21. 神奈川県警本部

探索者達が来ることは知られており、産婦人科爆発事件捜査本部の事件主任が対応してくれる。挨拶もそこそこに、事件についての概要を共有されるだろう。

徳井産婦人科職員爆破事件[概要]

横浜市 みなとみらいにある『徳井産婦人科』の医者2名、看護師4名が殺害された事件。
容疑者は、中区在住の『秋手 美優(25)』無職。
現行犯逮捕で、容疑を認めている。
秋手自身も妊娠しており、徳井産婦人科に通院していた。

凶器はプラスチック爆弾。
主に、軍やテロリストが使用する‘‘コンポジションC4‘‘が使用されていた。
国内では自衛隊、一部の大学でしか扱われない入手困難な爆薬であり、入手経路は調査中。
時限式に改良されていることや、威力計算が完璧であることから、何者かが教唆している可能性が高い。

逮捕に至った経緯は、深夜に徳井産婦人科に入っていった女性の目撃情報から。
証言者も通院中の妊婦であり、翌日来院した際に現場を見たことで心的外傷を負っている。

秋手の取り調べで、動機については「神から授かった赤ちゃんを奪われそうになった」
凶器の入手経路については「ドロッセルマイヤーさんからの贈り物」
等と、意味不明な供述をしている。

以降、神奈川県警本部を含め自由に探索することができる。
事件主任から話を聞いた時点で1日目の朝とし、探索は1日目の昼から行うものとする。

被疑者取り調べ

被疑者である秋手 美優は、県警本部の留置所に収容されている。
基本的に、逮捕された被疑者は取り調べを拒否することができない。
しかし、黙秘権があるため、強制的に何でも聞きだせるようなものではないということを念頭に入れて臨むべきだ。

取調室に入れば、腹を膨らませた女性が座っている。
医学に明るい探索者であれば、妊娠5~6ヶ月程の大きさだと分かるかもしれない。
秋手は健康状態を保たれているが、精神的に参っているようで表情は暗い。
それでも、探索者達の取り調べには、それなりに協力的な姿勢を見せる。

Q.なぜ職員を皆殺しにしようとした?
A.神から授かった赤ちゃんを奪われそうになった。
Q.上記質問について詳しく
A.胎児が奇形であったことから、急に流産を薦められた。紹介状のような書類を渡され、別機関での堕胎の手続きが勝手に進んでいると思い、子供を守らなくてはならないと思った。(医学・法律に詳しい探索者であれば、堕胎が許される日数を超えていると分かって良い)
Q.爆薬をどこで入手した?
A.ドロッセルマイヤーさんからの贈り物。迷った際、小包が落ちており『ドロッセルマイヤーより、神を宿した聖母へ』と記載されていた。当時は中身が何か分からなかった。
Q.誰に爆発物の扱いを教わった?
A.親切な外人女性から教わった。相手はフランス語であったため、最初はコミュニケーションに苦労したが、相手が英語に切り替えてくれたおかげでコミュニケーションが円滑になった。英語は日常会話可能な程度に話すことができる。
Q.その女性から爆薬を貰った?
A.違う。(心理学に成功すれば、嘘を言っていないように思う)
Q.その女性との出会いは?
A.道に迷っていたら声を掛けられた。恐らく「なぜここにいる?」とフランス語で聞かれ、分からない旨を伝えると、少し困ったそぶりを見せた後に道案内をしてくれた。道中、世間話として悩みを打ち明けると、自分のことのように怒ってくれた。小包の中身がコンポジションC4であることと、扱いを教わったのもこの時。
Q.結局自分はどこにいた?
A.神のおわす場所。軽々しく人に話すようなことではない。
Q.でかいハエを見なかったか
A.見ていない。
Q.旦那は?
A.いない。
Q.相手の男性に心当たりは?
A.性交未経験のため、心当たりはない。
Q.人を殺すことに抵抗は無かったのか
A.ない。
Q.本当に6人いた?
A.医師2名、看護師4名いた。
Q.徳井医院長はどんな人だった?
A.患者への対応もよく、人気があったと思う。堕胎の一件までは自分も信用していた。
Q.相倉医師はどんな人だった?
A.不健康そうな無表情の医師で、徳井医院長に比べて人気が無かった。
Q.なぜ警察に相談しなかったのか
A.信じてくれる気がしなかった。
Q.出産予定日は?
A.※4日後。
Q.どう見ても妊娠5~6ヶ月だけど?
A.神に人間の常識を当てはめるべきではない。

鑑識課

被害者の司法解剖結果を聞くことができる。
院長を含めた5名は、爆発による爆圧や破片による裂傷だ。
秋手の証言から被害者が6人いるとされているが、医者1名は遺体が無い為、現在も身元がわかっていない。鑑識は、至近距離の爆発によって跡形もなく吹き飛んだと考えているようだ。

押収品の白い付着物や、事件現場の変色した血痕について鑑識を依頼すれば、提出の翌日に結果がでる。それらは何かの生物の肉片と体液のようだが、生物の特定には時間が掛かるという。

押収品

爆発物作成に使われたものを除き、一般的な女性が持っていておかしくない物だ。
手鞄、スマホ、その他は化粧品や、筆記用具などだ。

手鞄の中身は全て出された後に並べられ、外気に触れぬよう全てビニールにくるまれている。

手鞄を確認する際、くるまれている袋が曇っていることに気付くだろう。
聡明な探索者であれば、当日、鞄が湿っていたと推測できるかもしれない。
また、近日関東で雨は降っていないという事もわかる。
さらに、目敏い探索者であれば、被疑者の鞄に白い粘性の何かが付着していることに気付けるかもしれない。

スマートフォンを確認するのであれば、押収された時点で電源が切られている。
電源を付けた時、注意力のある探索者であれば、時間がずれていることに気付けるかもしれない。
表示時刻は、現在時刻から9時間前が表示されている。
立ち上げが完了すれば電波が繋がり、表示は現在時刻に戻る。

資料室

起きたばかりの事件であることから、徳井産婦人科爆破事件に関する資料は無い。
また、個人が複数名をプラスチック爆弾で爆殺する等といった類似事件も過去に起こっていない為、本事件の関連資料は見当たらないだろう。
しかし、箱根駒ヶ岳での謎の落石や人食い熊に関連した資料は見つかるかもしれない。

弁解録取書

住居:神奈川県 川崎市 川崎区 ●-●-● メゾン三刻202
職業:施工員
氏名:葛 哲夫 くず てつお
生年月日:1995 / 6/7 (26歳)

本職は, 2022年●月●日 午後8時30分頃, 小田原警察署において, 上記の者に対し, 別紙記載の事項に基つき告知及び教示した上, 弁解の機会を与えたところ, 任意次のように供述した。

1.私は、2022年●月●日 午後5:00以降、立ち入り禁止であると知りながら、箱根駒ヶ岳でキャンプを行おうとしました。
その後、同行していた安藤 美佐子さんと喧嘩になり、岩に付きとばしたことで、腕に軽傷を負わせてしまいました。

2.複数の岩が崩落したのが意図的であるかを警察官に聞かれましたが、それについては質問の意味が分かりませんでした。

以上の通り録取して読み聞かせたところ, 誤りのないことを申し立て署名(印)した。

小田原警察署 司法警察員 河岸 瞑莉 (印)

この資料から、特別捜査本部の刑事が殉職することになった落石は{HO1}がロープウェイでであったカップルが引き起こしたものだと分かるかもしれない。
この弁解録取が事実であるなら、落石は意図せず起きたことのようだ。
その他の資料で、事件性無しと判断され、拘留されずに釈放されていることも分かって良い。

また、ツキノワグマについても担当刑事によって捜査が進んでいるようだ。
死体遺棄事件として捜査が開始された後、動物による被害と断定されて捜査が打ち切られた事件について、新聞記事の切り抜きが参考資料としてまとめられている。

箱根登山道死体遺棄事件

箱根駒ヶ岳山中で人間の足首が見つかった。

発見当初は死体遺棄事件として捜査を進められていたが、周囲に落ちていた肉片から肉食動物による被害である可能性が浮上した。
後の鑑定でツキノワグマの被害にあったと断定されたことで、捜査は打ち切られた。

熊が人を襲う理由は3つに大別され、空腹、戯れ、衰弱である。
このうち空腹、衰弱の場合は、一度人間を食べた個体は、人間を捕らえやすい獲物と認識し、再び襲う恐れがある。

空腹の場合は、他の動物で満足する可能性あるが、病気などで衰弱している場合は積極的に襲ってくるだろう。

小田原署から注意喚起の告知が急務である。

22. 徳井産婦人科

― 現場検証 ―

事件現場の『徳井産婦人科』は、みなとみらいにある富裕層が利用するクリニックのようだ。
現場保持されているため、事件当日の状態を調べることが可能だ。

各デスクの周辺に大量の血痕が残っている。
目敏い探索者であれば、血痕の一部が薄く変色していることに気付けるかもしれない。
これに対し、聡明な探索者であれば、色素の薄い液体と混ざっていることに気付けるかもしれない。

患者のカルテを調べるのであれば、レントゲン写真を確認することができる。
一見しただけでは、普通の胎児に見えるかもしれない。
しかし、よく観察すれば、この医院を受診している多くの患者の胎児が、多眼であることに気付くことができる。
【SANc 0/1】

多眼の奇形児を宿す患者は全てパートナーの登録が無い。
さらに、この多眼の奇形児を注意深く観察した探索者であれば、胎児は小さな生物が寄り集まって人の形を成しているだけだと気付いてしまう。
【SANc 1/1D8】

患者の住所はカルテに記載されている為、他の受診患者から聴取を取れるかもしれないと考えていい。また、目撃者の女性のカルテも見つかるが、胎児は正常である。

23. 被害者宅

― 徳井夫人の証言 ―

徳井産婦人科院長は妻帯者のため、遺族に話を聞くことができる。

徳井夫人の証言

・患者から信頼される誠実な男性だった
・短期の海外出張によく行っていた
 (聡明な探索者であれば、パスポートを確認するかもしれない。その場合、海外に行った履歴が無い事が分かる)
・1年前に医師を一人雇ったと聞いている
・最寄りの教会である『みなとみらい海岸教会』に通っていることから、キリスト教信者なのだと思っていた。自身は無宗教。
・遺品にオカルトじみた奇妙な本があった

奇妙な遺品

遺品について確認を願えば、夫人は古びた木箱を持ってくる。
木箱の中には『REVELATIONS OF GLAAKI Vol.4』と書かれた洋書が入っている。
この場で、流し見をする程度であれば、カルト的な内容が記載された奇妙な本だとしか思えないだろう。
貸出を申し出るのであれば、亡き夫の数少ない私物であることから難色を示す。
警察であっても、被害者の遺品を強制的に押収することはできない。
交渉に長けた探索者が説得すれば、譲ってくれるかもしれない。

REVELATIONS OF GLAAKI Vol.4

すべて英語で記載されている、手書きの手稿本のようだ。
英語技能が25以上であれば、半日掛けて流し読みすることができるだろう。

冒頭部分には、著者のカルティストが、来る終末の日を迎えた後の、己の在り方について記載されている。
以降は、Eihortと呼ばれる神と、‘‘雛‘‘と称される神の落とし子について記載されているが、すべてを読み、完璧に理解するには2か月以上かかると分かっていい。
《オカルト+3% クトゥルフ神話技能+1%》

目敏い探索者であれば、58ページと59ページの間に、手書きの別紙が貼り付けられていることに気付くかもしれない。
別紙には『BALK BROOD』というタイトルで、先述された‘‘雛‘‘を取り除く呪文が記載されている。

この呪文を習得するには、INT×2に成功した上で、15-INTの日数を必要とする。

アイホートの雛を取り除く

コスト:1D3ポイントの正気度・任意のMP
アイホートに雛を植え付けられた犠牲者から、雛を取り除くことができる呪文である。
この呪文を知っている者であれば、複数人で詠唱することができる。
参加者は、任意のMPを投入することができ、投入されたMPの合計と、犠牲者が雛を植え付けられてから経過した日数を対抗させる。
成功すれば、犠牲者の開口部から滝のように出てくる。
この時、犠牲者は苦痛と尊厳の喪失から1D3ポイントの正気度を失う。
また、この呪文を使用するたびに、アイホートが現れる危険が10%ずつ上昇する。
この場合、襲われるのは呪文の使用者となる。

24. 横浜市 中区内

― 聞き込み ―

秋手の自宅を捜査するのであれば、大家から鍵を借りることができる。
一人暮らしのようで、男性と同居している様子はない。
隣の住人などに話を聞いても、男が出入りしているところは見たことが無いという。

徳井産婦人科通院患者

徳井産婦人科でカルテを確認した場合、奇形児を宿した患者の話しを聞く場合、カルテに記載された住所に向かうことができる。しかし、どの家を訪ねても不在のようだ。
患者たちと交流があった近隣住民に話を聞けば、誰とも交際していないはずなのに「妊娠した」と言い出したということが共通している。

第一発見者

事件現場を目撃してしまった不幸な第一発見者は、凄惨な現場の様子がトラウマになり、精神病院でカウンセリングを受けているようだ。
県警に呼んでも良いし、自宅まで伺うでも問題ない。
いずれの場合も、体調が不安定であることと、妊婦であることからご主人が同席する。

この女性から聞けることは、夜間ご主人との散歩中に徳井産婦人科を通り過ぎたところ、秋手美優が中に入っていくところを目撃したという事だ。
待合室で顔を合わせていたことから、病院関係者ではないことがわかっており不審に思っていたそうだ。

事件現場の話をすると、顔を真っ青にして嘔吐する。
ご主人の怒りを買うことになり、聴取は不可能となるだろう。
女性は「蜘蛛が...!大きな...しろ...!」と言って頭を抱えながら席を後にする。

検索

『パートナー不在の妊娠』『神の子を宿す』等をネットで検索すれば『真胎教』という新興宗教がヒットする。

真胎教

キリスト教プロテスタントを前身とする新興宗教。
イエス・キリストの母親であるマリアを、あくまでも‘‘人間の母親‘‘として特別視しないことから「神の子は誰にでも宿せる」という教えを説いている。
入信条件は、女性は処女であること、男性はアセクシャルであることが明示されている。
晩婚化が進む日本の現状も追い風になり、同性愛者、子供好きの未婚女性、ミサンドリストに支持され、じわじわと信者が増えている。
信者は、入信の際に1度だけ教会に赴き、神に祈りを捧げるのみで、以降は貞操を貫くだけで良い。いずれ、神が奇跡の子を宿してくれるというものだ。

また、事件現場周辺のプロテスタント教会を調べれば『みなとみらい海岸教会』がヒットする。馬車道駅から近いところにある為、被害者である徳井院長宅の徒歩圏内だ。

25. みなとみらい海岸教会

― 地下迷宮への入り口 ―

一般的な教会のようだ。
平日であれば、職員、礼拝にやってくる信徒、観光者がまばらにいるだろう。
土日であれば、通信教育の生徒が聖書について学んでいるかもしれない。
いずれの場合も、一見して教会そのものに問題があるようには見えない。
不審な点は牧師に話しを聞くのが手っ取り早いと考えていい。

牧師は人柄の良さそうな老爺で、真胎教について詳しく把握していないようだ。
教会は、信徒を差別することなく受け入れる。

牧師に対し、近日妊婦の信徒が増えていないかと尋ねれば、妊婦かどうかはさておき、確かに女性が増えたように感じると回答される。

牧師に教会の案内を願えば、全ての施設を紹介してくれるだろう。
中庭を案内される際、目敏い探索者であれば、胴が太くぼってりとした蜘蛛のような怪虫を見ることができるかもしれない。足が4本であることから蜘蛛ではなさそうだ。
【SANc 0/1D3】
怪虫は、記念碑の隙間に入り込んでいく。

記念碑をずらせば、地下階段が現れる。
牧師は、地下階段について知らなかったようで驚いているようだ。

26. 東京拘置所

― 嘉羽との面会 ―

嘉羽は、探索者達に対し拘留期間中の協力を約束している。
捜査に行き詰まったり、様子を確認するのであれば、東京拘置所で面会できるだろう。

手続きを終えると、刑務官に案内され、道中いくつかの注意事項を聞く。
それは、通常の拘留被疑者への面会で注意される内容とは異なる内容だ。

刑務官

「これよりご案内するのは、別件逮捕の非正規拘束者を収監する特別収容区です。こちらに拘留されている被疑者を決して口外しないでください。次に、金属類をベルトに至るまで全てこちらでお預かり致します。面会後、長時間の会話はご控えください。最後に、嘉羽羊介と話す場合、目を見て会話をしないようにお気をつけください」

探索者が上記に了承すれば、東京拘置所の地下フロアに通される。
そこには、少数の独居房が間隔を空けて配されており、収賄の容疑が掛かった政治家や、行方不明扱いの芸能人など様々な人物が収監されている。
探索者達が通れば「自分は無実だ」と泣いて釈放を懇願する者もいる。
最奥に付けば、檻の上半分がブラインドされた独居房から嘉羽の声がする。

嘉羽

「待っていました。{HO1}さん、{HO2}さん。ここは退屈なので、お話しできて嬉しいです」

以降、嘉羽との会話が可能である。
嘉羽は、基本的に事件解決に協力する。
また、嘉羽はあくまでも人間である為、人の心理を読むことに長けた探索者であれば、発言の真偽を図ることも可能だ。
そもそも、嘉羽は暗躍を隠すつもりが無い。
その為、嘘はつかないが、自身の計画の不利益になるような内容は秘匿する。

青塚中学鏖殺事件関与の疑い

この面会中に{HO1}が夏目 佐子の件を問いただすのであれば、注意が必要であることに気付くべきだ。
まず、夏目佐子に銃の扱いを教えた、またはそれを黙認したことを{HO2}に知られるべきではない。
捜査の一環とはいえ、日本が法治国家である限り、例外を認められないからだ。
後に揉み消されることになるだろうが、その後の公安としての職務に影響が出るだろう。
それでも言葉を選び、夏目 佐子に銃器を提供したのではないかと問いただせば、嘉羽は断じて提供してないという。

嘉羽

「渡していませんよ。僕がそんな堂々と法を破ると思いますか?ですが、例えば領海外で輸送中の物資を紛失したとして、それが‘‘偶然‘‘日本の中学生の手に渡っていたとしたら、それは非常に残念な事故ですね」

産婦人科爆破事件関与の疑い

秋手 美優との関係を問いただすのであれば、面識はないと答える。
人の心を読むことに長けた探索者であれば、嘘を言っていないと分かるだろう。
秋手美優と直接の面識があるのはルルだけだからだ。
爆薬の提供を疑っても、先述の夏目 佐子の件と類似の返答をされる。

嘉羽

「残念ながら、お二人が思うような関与はしていません。それに、爆薬であれば、僕が売らずとも入手するのは不可能ではない。取り締まりは厳しいですが、一部の大学、自衛隊、在日米軍などは持っています。それに、国外であれば日本よりは容易に入手できるでしょう。例えば、爆破テロが頻発したフランスのブラックマーケットでは、未だにテロリスト御用達の兵器が売られていますし、英国でもロンドンテロ以降は似たようなものです」

産婦人科爆破事件の推理

産婦人科爆破事件の捜査に行き詰まっている場合、暇を持て余している嘉羽は、パズル代わりに推理すると言ってくる。
一般人、それも被疑者に話すなど許されることではないが、背に腹は代えられないと判断するかもしれない。
その場合、最低限『湿った鞄』『9時間遅れの時刻表示』『神の子を宿す』この3点の情報を嘉羽に提供すれば、カルトの捜査を示唆する。

嘉羽

「イギリスですね。被疑者女性はどういうわけか、犯行直前にイギリスにいたようです。所有物をビニールに入れた後に水滴がつくのは、皮にしみ込んだ水分が気化したからでしょう。しかしここ数日、関東近郊で雨は降っていません。9時間の時計の遅れは、時差だと考えられます。9時間遅れで多湿の国といえば、イギリスの可能性が高い。イギリスの国教はキリスト教。派閥はプロテスタントが最も多い。更に、宗教勧誘の際、信者は独身女性をリスト化して勧誘活動に勤しみます。プロテスタント系の新興宗教を洗ってみるといいでしょう。処女懐妊などを本気で信じているのはキリスト教しかありません。カルトであれば、洗礼と称して性交を強制するのがお約束です。パートナー不在での妊娠も辻褄が合いますね」

私兵達の行方

{HO1}としては、私兵達の行方が気になる場合もあるだろう。
現在どうしているのかを尋ねると、日本まで護衛してもらった後に解任したという。

嘉羽

「日本までの護衛を最後に別れました。その後、皆さんがどうしているかは、プライベートなことですので、僕から言えることはありません」

YOUは何しに日本へ?

そもそも、嘉羽が何の目的で自ら留置されたのか疑問だろう。
目的について質問すると、悪だくみであることを隠さない。

嘉羽

「仕事です。武器商人の仕事ですから慈善事業ではありません。わざわざ捕まった理由はこうするのが手っ取り早かった。後は秘密です」

27. 真胎教

― 地下迷宮へ ―

これまでの探索で、秋手美優が真胎教というカルトに入信しており、それには徳井産婦人科がなんらかの形で関わっていることが分かった場合、みなとみらい海岸教会地下を調べることになるだろう。

この時、用意周到な探索者であれば、拳銃、防弾ベストの装備を整えようとするかもしれない。
その場合、警視庁の警視以上の上官に携帯許可を取る必要がある。
捜査の一環で銃の所持は基本的に認められない為、第一声は渋られる上に「許可は下りないと思え」と念推されるだろう。
しかし、翌日、または緊急の場合は十分程度で折り返しがあり、銃の使用許可が下りる。
上官はこの件に関して許可が下りたことに疑問を持っている様子だ。
有能な探索者が、獅子園に捜査の進捗報告と武装の必要性を説き、あらかじめ根回しをしておけば、すぐに許可が下りるかもしれない。

28. ブリチェスター地下迷宮

― 教会地下 ―

みなとみらい海岸教会の中庭から地下へ入れば、一本道の洞窟が伸びているのが分かる。
奥に進むにつれ、湿気が多くなり、気温が下がったように感じる。
スマホを確認しても圏外である為、インターネットに繋げるアプリは使用できない。
位置情報の検索は不可能だ。

奥に数分ほど歩いたところで、一本道だった通路は、次第に迷路のように入り組んでいく。
地面や壁には、教会の中庭で見た白い蜘蛛のような怪虫が至る所に這いまわっている。
怪虫は、探索者達を襲うでもなく逃げるでもなく、無作為に蠢くのみだ。
【SANc 1/1D3】

怪虫を踏みつぶす

この時から、探索者は1行動毎にDEX×5をロールする。
探索であれば、技能を振る場合。戦闘であれば、1R毎にこのロールが発生する。
成功すれば、1D5匹の怪虫を踏みつぶしてしまう。
失敗すれば、2D5匹の怪虫を踏みつぶしてしまう。

耳聡い探索者であれば、複数女性による合唱を聞くことができるかもしれない。
この合唱を聞くことができれば、迷路の奥に進むことができるだろう。
英語が堪能な探索者であれば、以下の内容が聞き取れるかもしれない。

聞き取れた内容

「Iä! Eihort! Give me the Son of Eihort!」

声の元へ向かえば、広い地下礼拝堂につき当たる。
正面には礼拝堂、左手には洞窟の岩肌に木製の扉があり、右手にはさらに奥へ続く通路がある。

地下礼拝堂

正面の礼拝堂には、等間隔に寝そべり、両手を掲げ、左右にゆらゆらと揺らしながら、奇妙な歌を合唱している女達がいる。
その歌は、変調が激しく不安を掻き立てるものだ。
掲げられた手は、全員が綺麗に揃って揺らされており、不気味さを増している。

横たわった妊婦達は、皆一様に腹が膨れている。
腹の大きさが秋手と同程度であることから、彼女の言葉を信じるのであれば、全員同時に彼女たちの胎内からナニカが生み出されるのだと分かっていい。
中には徳井産婦人科のカルテにあった者と同一人物も見受けられる。

通路

奥へ進む通路に注意を向けるのであれば、耳聡い探索者であれば、何者かの足音を聞くことができるかもしれない。
足音の主も探索者達に気付いたのか、警戒を強めたすり足に変わる。
お互いの姿が見えた時、正面から来た者が銃を構えていることが分かるだろう。
直後「Hold up!」と女性の声で警告される。

{HO1}であれば、すぐに気付くだろう。
前から現れたのは、嘉羽の私兵の一人だった『ルル・カルコル』だからだ。
ルルも同時に{HO1}に気付き、驚いている。

ルル

「{HO1}?!なんでこんなところにいるの?!」

殆どの探索者が、こちらのセリフだと思うだろう。
探索者達が事情を話せば、ルルは任務について口を滑らせながら、探索者達に事情聴取する。

ルル

「私はヨースケと別れてから、古巣の※RAIDに戻ったんだ。今は、イギリスのカルトに誘拐の容疑が掛かってて、パリの教会に潜伏…って、部外者に話したらダメなんだこれ……。とにかく、なんで君たちがフランスの教会地下にいるの?」

ルル

「その話、一概に馬鹿にできないんだよね…。先日、不法入国で捕らえた複数のイギリス人が、イギリスのセヴァン渓谷にある洞窟から来たって証言したことがあったんだ。迷路を抜けたら、パリの教会に出たって言うもんだから、虚偽陳述ってことで処理されたんだけどね。あまりにも件数が多いから不思議だったんだ。なんにせよ、ここがどこか把握しないとね。少し待って。地下だから時間かかるけど、大まかな位置情報が受信できるから」

そう言いながら、大きな無線型の機械を操作する。
直後、ルルは受信結果を見て驚愕の声を上げる。

ルル

「ハァ?!イギリス?!なにこれ、壊れたのかな…。現在地がイギリスのグロスタシャー州になってる…」

そう話している間に、礼拝堂の子部屋が開く。
中から出てきたのは、白い肌をしたスキンヘッドの男達だ。
男たちの腕は、筋肉の動きにしては、不自然に肉が脈打っている。
目敏い探索者であれば、身体中に小さな目が付いた、多眼の異形であると気付いてしまうかもしれない。
【SANc 1/1D8】

男たちは、礼拝に参加していない探索者達とルルを捕らえようと迫ってくる。

【戦闘】アイホートの後裔×3体

アイホートの後裔のHPを0にすると、身体がボロボロと崩れるように見える。
それらは、教会や周囲に蠢く白い蜘蛛に似た怪虫で、再び人型を成そうと集まり始める。
その様子をルルが見ていれば、集まった怪虫を一斉に爆破する方針に切り替える。

ルル

「このままじゃキリがないね。コレ、念の為持ってきておいてよかったよ!」

そう言って、手のひらサイズの丸い機械を複数取り出す。
その後、人型になろうと集まる怪虫を数匹を捕らえ、手に持った機械を吸着させて解放する。
ルルは、その怪虫達が吸着された機械を意に介さず人型になろうと集まるのを見て、探索者に「離れておいて」と忠告する。

次の瞬間、再び人型になった怪虫の集合体が爆発する。
爆音と共に、肉がつぶれる音が洞窟内に響きわたり、辺りには白濁の液体が飛び散ちる。
これにより、ただ集合体がバラバラになったのではなく、衝撃と燃焼により、怪虫1匹1匹が完全に絶命しているのが確認できる。

小部屋

念入りに扉に対し聞き耳を立てた探索者であれば、虫か何かが這いまわる音が聞こえるかもしれない。
ただ、この洞窟内には今も大量の怪虫が這いまわっている為、虫の這いずる音のみで中の様子を推理することは困難だ。

扉を開けた場合、白い肌をしたスキンヘッドの男達と目が合う。
男たちの腕は、筋肉の動きにしては、不自然に肉が脈打っている。
目敏い探索者であれば、身体中に小さな目が付いた、多眼の異形であると気付いてしまうかもしれない。それらすべてが探索者達を捉えている。
【SANc 1/1D8】

男たちは、礼拝に参加していない探索者とルルを捕らえようと迫ってくる。

【戦闘】アイホートの後裔×3体

アイホートの後裔のHPを0にすると、身体がボロボロと崩れるように見える。
それらは、教会や周囲に蠢く、白い蜘蛛に似た怪虫で、再び人型を成そうとする。
このままではキリがないと分かって良い。

子部屋から逃げるのであれば、警官服の女性と鉢合わせる。
{HO1}であれば、すぐに気付くだろう。
前から現れたのは、嘉羽の私兵の一人だった『ルル・カルコル』だからだ。
ルルも同時に{HO1}に気付き、驚いている。

ルル

「{HO1}?!なんでこんなところにいるの?!」

驚く暇も、再開を喜ぶ時間もない。
再び人型に成ったアイホートの後裔が襲ってくるからだ。

ルルに対し、アイホートの後裔の再生能力について情報共有すれば、「そういうことなら任せて」と言い、装備していたSMGで集合体から怪虫を剥がす。
その後、再び人型に戻ろうとする怪虫の1匹を捕らえ、何かの機械を吸着させて解放する。
ルルは、怪虫が吸着された機械を意に介さず人型に成ったのを見届けると、探索者達に「離れておいて」と忠告する。

次の瞬間、再び人型になった怪虫の集合体が爆発する。
爆音と共に、肉がつぶれる音が洞窟内に響きわたり、辺りには白濁の液体が飛び散ちる。
これにより、ただ集合体がバラバラになったのではなく、衝撃と燃焼により、怪虫1匹1匹が完全に絶命しているのが確認できる。

ルル

「それで、君たちがフランスにいる理由を教えてくれる?」

そんな突拍子もない質問に対し、探索者達が回答する猶予は与えられない。

29. アイホートの降臨

― 究極の選択・脱出 ―

アイホートの後裔を爆破した直後、迷宮全体が大きく揺れる。
壁や天井が崩れることから、探索者達はそれらの回避に専念することになるだろう。
礼拝堂の女達は、それでもなお歌い続け、運の悪い者は崩落する天井に潰されている。
崩落に巻き込まれていない者は、それらを意に介さず声量を上げる。
それは、待ち望んだ神が降臨したような歓喜の歌声に聞こえるかもしれない。

直後、ルルが「うっ…!」という苦痛を押し殺したような声を上げる。
確認すると、壁を貫通した白い触手の先が、ルルの腹に突き刺さっている。
しかし、触手はすぐにルルの腹から離れ、壁の中へと消えていく。
ルルのケガは、少々太い注射針に刺された程度のようだ。

ルル

「イッたぁい…! けど、大丈夫…!そんな大怪我じゃないよ。軽く止血するだけで問題ないくらい」

ルルの止血をする、もしくは自身での処置を見守っている間に洞窟の揺れはピークに達する。
目敏い探索者であれば、崩れた礼拝堂最奥で、巨大な白い肉隗が蠢いているのが分かるかもしれない。

肉隗は、この世の何とも形容しがたい雄たけびを上げ、礼拝堂を蹂躙する。
合唱していた女達は、歓喜の声を上げて化物の虐殺を受け入れている。
ようやく全貌を現したそれは、肉のついていない無数の足に支えられた、青白く膨らんだ楕円形の怪物だった。
怪物の全身についた赤いゼリーのような複数の目は、その全てが探索者達を捉えているようだ。
【SANc 1D6/1D20】

激昂するアイホート

迷宮の神アイホートは、雛が大量に葬られたことで激昂している。
爆破の主犯であるルルは当然のこと、探索者達がこれまで何匹の怪虫を踏みつぶしているかによって、アイホートの怒りの矛先が変わるだろう。

怪虫をつぶした数が20匹以下だった探索者は、アイホートの怒りを買わない。
怪虫をつぶした数が20匹以上だった探索者は、アイホートの怒りを買ってしまう。

迷宮の神は、不敬の探索者に対し、究極の選択を迫ってくる。
所謂テレパシーというもので語り掛けてくるため、耳をふさぐことに意味はない。

神の選択

「雛の苗床となるか、死か。好きな方を選べ」

恩情に期待して苗床となることを選べば、迷宮の神から延びた触手が腹に突き刺さる。
腹に空いた穴は、太めの注射針程度のもので、簡単に止血ができるような傷だ。
今の探索者には、それ以上のことは分からない。

神の最後の恩情を無下にし、苗床となることを拒否するのであれば、神はその巨体を以って探索者を押しつぶそうとする。
対象の探索者と、その半径3m以内にいる者は、地中を進む迷宮の神の<DEX12>との対抗に勝利しなければならない。
追いつかれた者は、回避に成功しなければ巨体に押し潰されてしまうだろう。
潰された者は、5D6のダメージを受けることになる。

いずれの場合も、アイホートは雛を大量に葬ったルル・カルコルを許さない。
ルルが生きている限り、怒れる迷宮の神から逃げなくてはならない。
この場合、地中を進む迷宮の神の<DEX12>との対抗に勝利すれば、十分な距離を取ることができるだろう。
しかし、迷宮の神は探索者達を追うのを辞めない。

十分な距離を取ったところで、ルルが対抗策について切り出す。
ルルの手元を確認すれば、延長コードのような物を引きながら走っていたようだ。

ルル

「こんなこともあろうかと、いくつか遠隔操作爆弾を用意しといたんだよね~!あの化物には、イングランドの台地の肥やしになってもらおう。そろそろコードも限界だ。起爆するよ!」

ルルが点火装置を起動すると、探索者達が逃げてきたはるか後方で、爆発音が響く。
長い地響きの後、迷宮内は静まり返り、追ってくるアイホートの気配が消える。

30. みなとみらい海岸教会

― 苗床の末路 ―

背後の迷宮が爆破で崩落したことにより、再び一本道を戻ることになる。
もう白い怪虫はいない。

数分も歩けば、洞窟内の湿気が減り、気温が戻ったように感じる。
出口が近いと分かるだろう。
道中、ルルに対して秋手への関与を問いただせば、カルト捜索の最中に出会ったことを明かす。
基本的に、爆破の知識を与えたことは濁して話すだろう。

ルル

「あの洞窟の捜査中に、隅でうずくまってる妊婦さんに会ったなぁ。赤ちゃんを殺されそうだって言って泣いてたからよく覚えてるよ。細かい事は女の子のデリケートな話だから内緒!」

そう話している間に、見覚えのある階段に辿り着く。
上階へ上がれば、みなとみらい海岸教会に戻ることができる。

ルル

「日本…?どうなってるのこの洞く…うあ゛っ……!」

ルルの驚く言葉は遮られ、腹を押さえて苦しみだす。
様子を窺うと、ルルの下腹部がはちきれんばかりに膨張しているのが分かる。
これは、アイホートの雛を植え付けられた探索者がいた場合、同様の状態になっている。
雛を植え付けられた犠牲者は、重心が崩れ、立つこともままならない。
仰向けに転がり、ボコボコと蠢くナニカが、内部から腹部を押し上げているせいか、海老反りになって悶えることしかできない。

スチルイラスト: still1.png

アイホートの雛を取り除く

事前に院長宅で<アイホートの雛を取り除く>呪文を習得していれば、
この時点でそれを使用することで、犠牲者が雛を生み出すことを回避できる。

取り除くことに成功すれば、ルル、または犠牲者となった探索者は、口内や陰部からごぽごぽと淫猥な音を立てながら白濁の液体を吐き出す。
これには大きな苦痛が伴い、また体内から得体のしれない者を放出したことから1D3ポイントの正気度を喪失する。

雛を取り除くことができない

<アイホートの雛を取り除く>呪文を習得していなければ、ルル、または犠牲者となった探索者を救うすべはない。
ルルは「ぃゃ…ア゛っっ…」と小さい断末魔を上げた後、腹部が臍から裂け、胎内からぼってりとした肢体の蜘蛛のような多眼の怪虫を大量に産み出す。
怪虫は、文字通り蜘蛛の子を散らすように周囲に散らばって逃げていく。
苗床の役割を終えた犠牲者は、抜け殻の様に絶命している。

アイホートの復讐

<アイホートの雛を取り除く>を使用するリスクとして、アイホート本体を呼び寄せてしまう可能性がある。
少ない確率を引いてしまった不運な術者がいた場合、アイホートはゴーツウッドの迷宮から術者を襲いに現れる。
教会の地下がせり上がり、迷宮の神と二度目の邂逅を果たしてしまう。
【SANc 1D6/1D20】

しかし、以降繰り広げられるはずだった術者への蹂躙は、人類の兵器によって阻止される。

神の雄叫びを掻き消す、甲高い機械音が空に響く。
見上げれば、2機の航空機が上空を旋回している。
丸みを帯びた先頭部には操縦席が無く、無人航空機であることが分かるかもしれない。
軍用兵器に造詣が深い探索者であれば、現役の軍用UAV『MQ-9 リーパー』と呼ばれる、機体であることを知っているかもしれない。
死神の名を冠した攻撃用無人航空機は、連結されていた地中貫通弾を投下する。
コンクリート地下への攻撃が想定された爆弾は、迷宮の神の肉体に深く突き刺さり、内部から爆発を起こす。

肉片と、白濁の体液を噴水の様にまき散らしながら、怒りの雄叫びは悲鳴に変わる。
深手を負った迷宮の神は、ズルズルと地下へ潜り、次第に地鳴りが遠ざかっていく。

31. 事件解決

探索者達が捜査で得た情報は、公けに明かせるような内容が殆ど無い。
しかし、いずれにせよ探索者達がまとめた証拠資料は無駄になる。
秋手 美優が、出産予定日(自称)に腹を裂かれて死亡したからだ。
その一部始終を見ていた留置担当官は「突然苦しみ出した後、腹を突き破って白い蜘蛛が大量に飛び出してきた」と報告している。

ルル・カルコルが生きている場合

衰弱していたルルは、すぐさま病院に運ばれた。
内容不明の液体が胎内に入っていたことから、胎内洗浄が行われることになっただろう。
また、探索者達が、付着物を予め鑑識に出していれば、ルルの胎内に入っていた液体は、秋手の鞄に付着していたものと一致したと聞けるかもしれない。
ルルの今後については、日本警察とフランス警察の協議の末、本国に送還することになりそうだ。退院後の身柄は、一時的に公安部が預かることになったと聞く。

こうして、徳井産婦人科爆破事件は被疑者死亡で幕を閉じることになる。
いずれの場合も、数日後に{HO1}は課長の伊角から、{HO2}は長官の獅子園から、それぞれ呼び出しが掛かる。

CASE:2
児童園立てこもり事件

徳井産婦人科爆破事件解決後、{HO1}は課長の伊角に、{HO2}は警察庁長官の獅子園に、それぞれ呼び出される。

32. HO:公安

― 公安の仮拠点 ―

{HO1}は、伊角から呼び出しが掛かる。
提示された場所は都内のレンタルオフィスの一室で、探索者はそこが公安の仮拠点であることを知っている。

室内に入れば、伊角の他にも、一時公安に身柄預かりとなったルルもいるのが分かる。
予め身分を明かしていれば「ハロー」と軽く挨拶するだろうし、身分を明かしていなければ、すでに伊角から話を聞いているようで「本当に公安だったんだ…全然気づかなかった!」と驚いている。

伊角

「大変だったみたいだな。イギリス セヴァン渓谷の怪物といえばアイホートという存在が伝承にある。お前達が見たのは恐らくそれだろう」

伊角は、探索者を労うと同時に、地下で邂逅した怪物についての概要を聞かせてくれる。

伊角

「アイホートは自身の雛を人間に托卵し、育てさせるという。また、孵化した雛は、複数寄り集まって人の形を成し、人に擬態して勢力を広げるのだそうだ。徳井は、カルトの犠牲者の経過観察を行っていたようだ。恐らくアイホートに魅入られた信者の一人だったのだろう。そんな彼が、なぜ雛を欲したのか、異常者の心理など知る由もないが、それに気づいた秋手は、アイホートの雛という神の子を守ろうと、殺害に及んだんだろうな。爆発物の扱いを教え込んだどこぞのプロが誰なのかが気になるところだが…」

そう言って伊角はルルに視線を移すが、ルルは明後日の方を向いて誤魔化している。
事件の話しが一段落すれば、続けてルルの今後についてと、嘉羽の調査について話す。

伊角

「まずは、ルルちゃんの今後についてだ。ひとまず、公安で預かることになったのは兆条だ。警察庁に身柄を渡すことになっていれば、非正規拘束され、帰国は困難だっただろう。私が頑張ったおかげなんだぞルルちゃん」

探索者はこの会話に違和感を覚えるべきだろう。ルルの呼び方ではない。
まるで、伊角が警察庁を出し抜いたような言い回しだからだ。
この疑問をぶつければ、伊角が警察庁に疑念を抱いている旨を話す。

伊角

「話が前後してしまったが、今後は警察庁の動きに注意したまえ。今はこれだけ念頭に置いておけ。諜報員たるもの、不確かな情報で固定概念に囚われるのはナンセンスだからだ。とにかく、ルルちゃんの身の安全は私が保証する」

最後に、嘉羽の調査について次の事件概要と秘匿任務が言い渡される。

伊角

「先日、世田谷区で子供が銃器を持ち歩いていたとして書類送検された。少年の名は『ユハ・コアトル』。世田谷児童園という児童養護施設に在籍する16歳の少年だ。少年は廃墟で拾ったと供述しており、入手経路が不明であることから、書類送検で済んだが、警察は嘉羽との関連性を疑っている」

探索者がルルの様子を窺えば、不服そうに腕を組んで黙っているのみである。
探索者が、ユハをどう思っているかによって、ここでのやり取りは変化することになるだろう。
{HO1}が、嘉羽の私兵達に内心敵対心を抱いている場合、かけられる言葉は無い。
しかし、私兵達に好印象を抱かれている場合、ルルは「ユハをよろしくね」等と、探索者を信用した上で、ユハの心配を口にする。
伊角は、上記によって、この後の任務言い渡しに変化があるかもしれない。
彼の目的は、ユハ・コアトルの保護だからだ。

伊角

「恐らく、君が行動を共にする{HO2}は、獅子園長官からユハ君の身辺調査を命じられる。君にも、彼を通して通達があるだろうな。次の、君の公安としての任務は『ユハ・コアトル』の保護だ。彼の身柄を警察庁に渡さないようにして欲しい。私の妄想が当たっていれば、ユハ・コアトルは警察庁によって‘‘処分‘‘される」

伊角が、警察内部にどんな疑念を抱いているかは聞きだすことはできない。
話が終わったあたりで{HO1}の携帯が鳴る。
相手は{HO2}になるはずだ。

33. HO:刑事

― 霞が関中央合同庁舎第二号館 ―

{HO2}は、獅子園から長官室に来るよう指示される。
探索者が室内に入れば、執務の手を止め向き直る。

獅子園

「まず、産婦人科爆破事件についてだ。報告に上がっていた真胎教は、何も知らない一般信徒を残して、残らずイギリス警視庁指揮の元、幹部残党の掃討作戦が行われた。二次被害が出ることは無いだろう。また、お前達が対峙したという未確認害獣の死体の報告は上がっていない。次に、害獣出現当日、みなとみらい海岸教会上空で、出撃許可の下りていない攻撃用UAVが飛行してるのが確認された。UAVは横浜駐屯地の陸自が回収した後の調べで、横須賀の米海軍施設からの出撃だと分かったが、オペレーターは不明。現在も調査中だ。以上。質問が無ければ、お前達が次に捜査すべき事件を伝える」

現時点で、獅子園は全警察官に共有可能な情報しか与えない。
探索者が理解を示せば、新たな事件概要を説明される。

獅子園

「先日、世田谷区で子供が銃器を持ち歩いていたとして書類送検された。少年の名は『ユハ・コアトル』。世田谷児童園という児童養護施設に在籍する16歳の少年だ。少年は廃墟で拾ったと供述しており、入手経路を裏付ける証拠が無いことから、書類送検のみとなった。しかし、少年が所持していたのはHK416という、カービン型軍用アサルトライフルだ。民間での入手は困難である。それが後押しとなり、ユハ・コアトルが自発的に入手したものではないと結論付けられたわけだが、自衛隊、在日米軍にHK416の紛失記録はない。よって、ユハ・コアトルの身辺を調査し、嘉羽との関連性を洗ってこい。幸い、私は世田谷児童園とは縁がある。話は通しておく。微罪でも見つかれば、少々強引に別件逮捕しても構わん。退室次第、{HO1}と共に現場へ向かえ。以上だ」

探索者が了承すれば、最後に獅子園から個人的な忠告が入る。

獅子園

「これは、個人的な忠告として聞きなさい。刑事の職務は‘‘刑法‘‘という、社会秩序のために強制される規範に基づき、それを犯す者を捕らえることだ。お前はこの刑事であり、個人の倫理を軸に行動するべきではない。法治国家において刑法は絶対だ。神と置き換えてもなんら違和感がない。神託を無心で遂行する愚かな羊飼いであれ」

これになんと答えようと、獅子園は執務に戻ってしまい、さらなる返答はない。
探索者は、早急に{HO1}に連絡して、世田谷児童園を捜査する旨を伝えるべきだ。

34. 東京拘置所

― ユハ・コアトルの過去 ―

ルル・カルコル、ユハ・コアトルの両名が登場したことで、嘉羽との関連性が強くなってくる。
この場合、改めて面会を望む場合もあるだろう。

拘置所に着くと、職員が少し慌ただしいように感じるかもしれない。
警戒度が上がっているようだ。
刑務官に尋ねても「※箝口令が出ておりますので…」としか言われない。

嘉羽の面会に際しての注意事項は、前記と変わりない。
厳重なチェックを終えて、嘉羽が収容されている地下特別収容フロアに案内される。
嘉羽は、相変わらず見透かすような発言をして、探索者達を苛立たせるだろう。

嘉羽

「よく来てくださいました。ルルさんは元気でしたか?」

無許可出撃したUAVへの関与

なんの証拠もないだろうが「無人航空機を勝手に動かせそうなのはお前しかいない」
と、疑う場合があるだろう。
これに関しては、流石に暴論過ぎて嘉羽にも笑われてしまうが、近からずも遠からずであることから意味ありげな返答をされる。

嘉羽

「アハハハ!おもしろいこと言いますね!いくらなんでもここからUAV動かせるわけないじゃないですか。ですが…。機種はMQ-9ですかね?最近は、どこの軍も予めプログラムしてボタンーつで拠点爆破する時代ですよね。箱根に行く前にも、横須賀基地のお偉いさんにUAV関連で色々諮問されましたよ」

ユハ・コアトルの所在

何故、ユハが日本の児童養護施設にいるのかと尋ねるのであれば、ユハの生い立ちについての詳細を聞くことができるかもしれない。

嘉羽

「ユハが少年兵だったことはご存じでしょうか。中東の反乱軍に、少年兵として人身売買されたユハは、軍技に優れなければ、地雷原を先頭で歩くデコイにされる為、必死に戦闘技能を学んだそうです。彼が従軍していた反乱軍は、後にアメリカの軍事介入で壊滅します。その後、支援団体を通じて日本の児童養護施設に預けられました。ユハは、幼少期から死と隣り合わせだったことで、真に自身の身を守れるのは武力であり、現代においてそれは兵器であると身に染みています。そのせいで、今でも銃を持っていないと寝れないそうです。さらに、上官の命令に背いた場合の体罰を恐れていたことから、自己判断能力が圧倒的に欠如しています。よって、信用した相手の命令に疑問を持たず、必ず従ってしまいます。少なくとも、彼が僕の命令に反したことは一度もありませんでした。養護施設の名は『世田谷児童園』、園長は『春日 春美』というおばあさんです。僕は彼にとっての良き上官になることはできましたが、彼を子供扱いしたことはありません。ユハに対し、愛情を注ぐべき子供として接した唯一の存在が春日園長でしょう。不眠に悩むユハに、少しでも不安を和らげるようにと、ミリタリーショップでモデルガンを購入したりと、よく面倒を見ていたと聞いています。また、春日園長は、元は高名な数学者で、アーカムのミスカトニック大学で数学教授をやっていた経験がおありです。今でも臨時講師をしているようで、僕が知り合ったのも米国です。その後、僕がユハを雇ったのは、適材適所以上の理由はありませんので、ここで語るべきドラマはありません。今回、解任後に世田谷児童園に戻ったのは彼の意思です。彼がどのような考えで古巣に戻ったのか、僕には彼の胸中までは分かりませんが、この意思決定が、彼の成長の第一歩となれば良いですね」

拘置所の異変について

刑務官の様子に違和感を覚えたことを話せば、あっさりと教えてくれる。
法務省の事情など考慮の外である嘉羽にとっては、機密情報であろうとも知った事では無い。

嘉羽

「脱獄だそうです。この特別収容フロアからの脱獄者ですから、公表できないのでしょう。今朝のことですから、今頃事件を起こしているかもしれませんね」

35. 東急二子玉駅

― ユハ・コアトルとの再会 ―

世田谷児童園は、東急二子玉川駅の近くに位置するようだ。
駅前の駐車場、または改札を出たところで、目敏い探索者であれば、駅前スーパーで買い物をする、ユハと老婆を見つけることができるかもしれない。

老婆は食材を買っているようで、ユハはその荷物を持っているという、ごくありふれた光景だ。
話しかけるのであれば、老婆は気さくに挨拶を返す。
ユハは{HO1}に「お久しぶりです」と返し{HO2}に若干の警戒を示す。

老婆は、70歳前後の見るからに優しそうな女性だ。
探索者達が、施設への案内を申し出なくとも、老婆の方から招いてくれるだろう。

春日

「ユハのお友達ですか?それはそれは!お世話になっております。私は世田谷児童園という児童養護施設を営んでいる春日と申します。立ち話もなんですから、是非園にお越しください。良いお店でお話しできればいいのですが、これからご飯の支度があるんです」

この時、目敏い探索者であれば、春日の腕に出血していない黒い切り傷があるのを見ることができるかもしれない。
この事を春日に問うても「あら?どこかで擦ったのかしら?」と、身に覚えがない様子だ。

探索者達は、春日に案内され『世田谷児童園』に向かうことになるだろう。
この時、道中でユハに対し、アサルトライフルを所持していた件について尋ねると、嘉羽の私兵を辞めた時から、所持したままだという。
また、{HO1}がユハから信用されていると判断される場合、他にも銃器は持っているのかと尋ねれば、園内にARを1丁隠し持っていると明かす。

ユハ

「どうしても捨てることができませんでした」

話してる間に、世田谷児童園に到着するだろう。
しかし、なぜか児童園の周囲には人だかりができている。
野次馬と、複数の警官が中の様子を窺いながら無線で会話をしているようだ。

36. 世田谷児童園

― 事件発生 ―

周辺住民や、身分を明かして警官に状況を聞けば、銃を持った男が児童園の子供を人質に立てこもったとのことだ。
園の様子を見ると、全ての窓にカーテンが掛けられ、中の様子が見えないようになっているのが分かる。時折、薄くカーテンが開きチカチカと光る。
聡い探索者であれば、犯人が鏡で様子を確認しているのだと分かるかもしれない。
春日は「どうしましょう…!」と慌てながらも、中の子供を案じている。
ユハも、今は持っていない拳銃を取ろうと、自身の腰をまさぐっていることから、無表情に反して動揺しているようだ。

第一要求

探索者達が着いてすぐ、中から小学校低学年児童が正面玄関から出てくる。
児童は紙を持っており、駆け付けた警官か探索者達に手渡す。

紙には、犯人からの要求が記載されていた。

『逃走用の大型バスを一台用意しろ。メッセンジャーに使った児童は中に戻せ。3分以内に戻らなければ、人質を1人殺す』

要求事態は、立てこもり事件としてはシンプルなものだ。
表現に問題はあれど、セオリーと言いかえてもいいような内容だと感じて良い。
それに、警察に人質の安全を確認させつつ、要求を伝える手際の良さから、興奮や薬物乱用からなる『情緒型』ではないと分かる。
犯人が落ち着いており、計画的犯行であると分かるかもしれない。
しかし、聡い探索者であれば、要求が脱出手段のみで、金銭等の追加要求が無い事に違和感を感じることができるかもしれない。

また、心理を読むことに長けた探索者であれば、メッセンジャーに使われた児童が、怯えていないことに気付けるかもしれない。
違和感を覚え、園児に怯えていないのかと尋ねれば、思い出したかのように怯え始める。

いずれにしても人命優先のため、児童を園内に戻さざるを得ないだろう。
戻された児童は、正面玄関から中に入る際、何か言葉を発したようだ。
耳聡い探索者であれば「おばあちゃん来てるよ~」と、家族に話すような様子だと分かるかもしれない。

第二要求

カーテンの隙間から反射光が見え、犯人が何度かカーテンから様子を窺った後、再び別の児童が紙を持って出てくる。

『春日 春美、ユハ・コアトルを園の中に入れろ。メッセンジャーに使った児童も中に戻せ。5分以内に応じなければ、人質を3人殺す』

この第二要求までに警視庁から応援が来ており、対策本部ができている。
この時点で、以降は探索者達の一存で判断を下すことはできないだろう。
現場で指揮を執っている警視庁捜査一課の警部は、小型盗聴器などを携帯させたうえで、人質を園内に入れることを検討している。

立てこもり事件の際、警察としての優先順位は
1,人質の解放
2,犯人の人命
3,犯人の逮捕
であると認識しておくべきだ。

人質の殺害が明記されている以上、要求を無視することはできない。

探索者達にしかできないことは、ユハに的確な指示を出すことだ。
この場で、ユハに高い戦闘力があることを知っているのは探索者達だけだからだ。

想定される指令は、園内にARが隠されていることを知っている場合、ユハに犯人の制圧を命じることだ。
しかし、ユハがARを所持していることが明るみに出れば、後に逮捕されることになることを忘れてはならない。
探索者達がユハに指示をすれば、能力的に不可能なこと以外は全て了承する。

指示を終えた頃、春日園長に盗聴器を仕込み、園内に入ってもらうことになる。

秘匿指令

春日、ユハの両名が園内に入れば、盗聴器で中の様子が聞き取れる。
内容は以下のようなものになる。

園児(幼)

「ばあちゃんお帰りー!」

春日

「無事でよかったわぁ!怪我してない?」

園児(幼)

「大丈夫ー!ユハもおかえり!ごはんは?!」

園児(高)

「おかえり。ユハ、荷物あずかるぜ」

春日

「みんなおちついてるけれど、犯人のかたは?」

園児(高)

「ああ、それなら…」

??

「ばあちゃん、久しぶりだな。っとその前に」

この会話以降、盗聴器は音を拾わなくなる。
犯人に見つかったのだと分かって良い。
この時{HO2}であれば、犯人の声を聞いたことがあると思うかもしれない。

犯人が盗聴器を仕掛けていた事実に気付いたことで現場に緊張が走るが、人質の悲鳴や、第三要求が来る様子が無い。
膠着状態が続くと思われる中{HO2}の電話が鳴る。
着信の相手は獅子園だ。
電話の内容は{HO2}に対する秘匿指令のようだ。

獅子園

「現在起きている立てこもり事件犯人が警察関係者であることが分かった。それに伴い、君に犯人の殺処分を許可する。日本において警察官が拉致監禁事件を起こし、成功したという事例があってはならない。この場合、君のキャリアに傷がつかないよう事故として処理する。世田谷児童園は古い建物だ。当時の設計ミスで、建物側面にある室外機、電気メーター等の上部にある窓は、ボイラー室につながっており、室内から見ると管で隠れてしまっている。施工当時を知らない者が気付くことは難しい。過去の職員でも、換気程度でしか開閉したことが無いだろう。そこから内部に侵入できるはずだ。園内にあらかじめ協力者がいる場合を除き、単独犯である可能性が高い。{HO1}と共に、速やかに制圧しろ。君達の手による殺処分が不可能だと判断した場合、または犯人の素性が君達以外の警察関係者、もしくはマスコミに目撃される可能性が高くなると判断される場合は強行手段に移る。これには、人質、民間への被害が出る恐れがある。強行手段を取らない為にも、君の働きに期待している。この指令は{HO1}以外に明かしてはならない。拳銃携帯の許可は出してある。以上だ。返答の必要は無い」

通話は、返答をまたずに一方的に切られてしまう。
獅子園との通話が終わると、新たに現場に到着した刑事から、拳銃所持許可の旨と、装備一式が渡される。

探索者達は、獅子園の命を遂行するかどうかはさておき、人質救出を優先すべき刑事であることに変わりはない。教えられた方法で人質救出に向かうべきだ。

また、他の警察関係者に犯人の素性を見られてはならないそうだ。
いずれにしても、大人数で窓から潜入するのは現実的ではない。
潜入は、探索者達2名で遂行するべきだろう。
方法は、現場の警察の目を盗むでもいいし、上官に進言して納得してもらっても構わない。

潜入

獅子園から伝えられた通り、建物側面の室外機の上部に窓がある。
大人でもなんとか入れそうな小窓だ。
隠れるのが得意な探索者だったり、登攀の技術がある探索者であれば、音を立てずに潜入することができるだろう。

窓の破壊方法は、探索者達の機転を積極的に採用すると良い。
例えば、ガムテープなどでガラスの一部を覆った後に破壊すれば、最小限の音で済むだろう。

37. 世田谷児童園:内観

― 死者との再会 ―

窓の先は、獅子園の言う通りボイラー室になっており、太いアルミの管が邪魔になり、隙間から覗かなくては内部の様子がよく見えない。
そっと中の様子を窺うと、そこには和気あいあいと日常を過ごしている園児たちが見える。
泣いている者等一人もおらず、春日園長は台所で料理をしながら、年長の園児がその手伝いをしているようだ。

ユハは成人男性と何かを話している。
その男は{HO2}の元バディで、嘉羽 羊介逮捕の際に殉職したはずの音子伽 康里だ。
{HO2}は**【SANc 0/1D3】**の正気度喪失が起こる。

音子伽の殺害

以降、{HO2}は自由なタイミングで音子伽を殺害することができる。
殺害の方法は何でも構わないが、死体を警察関係者に見られてはならない。
目撃者に関しては{HO1}のみ許される。
もちろん、殺害に反対しても構わない。
殺害を決行する場合は【音子伽を殺害する】の項目に移行する。
探索者達は、速やかに音子伽を殺害しても良いし、話しを聞いても良い。
いずれにしても、探索者達が潜入の際に大きな音を立てるなりすれば、音子伽が気付くだろう。

音子伽

「お久しぶりです先輩。アンタは{HO1}さんだよな?嘉羽さんから話は聞いてるよ。俺は{HO2}さんの元バディだった音子伽 康里だ。短い間になると思うがよろしくな。まず、俺は人質に危害を加えるつもりも無いし、何を要求するつもりもありません。ひとまず、お二人が疑問に思うだろうことを大雑把お話しします。細かい質問はその後に応えますね」

その会話の最中も低学年の園児は「やすりー!だれだそいつ!」と気さくに話しかけられ、
年長の園児は音子伽の代わりにカーテンの隙間から外の様子を窺っている様子が見える。
ユハも音子伽を警戒していないようで、音子伽の横に控えている。
疑問は尽きないだろうが、ひとまず分かることは、園内で{HO1}を除く全ての者が音子伽と面識があるということだ。

音子伽

「まず{HO2}さん。俺が先輩に最後に会ったのは、夏目 佐子の結審の日です。以降、俺を見たんだとしたら、それらは全て俺じゃない。何故なら、俺はその日から今日まで東京拘置所に収監されていたからです。そして{HO1}さん。俺がユハや春日さんを知ってるのは、この園出身だからだ。5年前、ユハが来た時は驚いたな。まぁ銃抱えた外人のガキをみりゃみんな驚くわな」

そう言いながらユハの頭を軽く小突くが、それに対するリアクションは無い。
ユハが警戒していないことが、それらの言葉が真実であることを裏付けるようだ。

音子伽は、ここで会話を切り、質問を受け付ける。
想定される質疑応答は以下のような物になる。

想定される質疑応答一覧

Q.なぜ東京拘置所に収監されていた?
A.贈収賄容疑をでっち上げられた。やってない。
Q.どうやって拘置所から脱獄した?
A.なぜか今朝檻が開いていて、道中のセキュリティも作動していなかった。
Q.心当たりは?
A.服役中のはずの受刑者が街中で目撃された事件を調べていた。
Q.なぜ急に捜査を始めた?
A.殺人事件を起こして逮捕された同僚が勤務しているのをたまたま目撃した。
Q.調べて何が分かった?
A.ここ数年、警察関係者が起こした事件が隠匿されている。犯人は秘匿逮捕され、東京拘置所の特別収容区に収監されている。隠匿が成立しているのは、収監されたはずの警察関係者が通常通り勤務している事と、全員が天涯孤独の者であるからだと考えられる
Q.警察を疑っている?
A.関与しているとしか思えない
Q.嘉羽といつ会った?
A.夏目の結審後、たまたま日本にいたユハに声を掛けた際に知り合った。
Q.嘉羽に何か吹き込まれた?
A.該当者の出自を調べてみろとアドバイスをもらった。
Q.嘉羽が武器商人だと分かってる?
A.分かっている。
Q.これからどうするの?
A.海外に逃げる。

音子伽は、何かのタブーに触れて非正規拘束させられていたと主張する。
いずれの場合も、ユハは音子伽を信頼しているようだ。
春日に話を聞いても、音子伽の話しを裏付ける結果になる。

春日

「康里ちゃんは小さい頃からここで過ごしていますよ。私に難しい事情は分からないですが、せっかく帰ってきたんですから、ご飯くらい食べさせてあげたいと思います」

そう言うと、いそいそと台所へ調理しに行く。
園児たちは、春日が台所へ向かったのを見ると、食器を並べたり調理の手伝いなどを始める。
その様子を見て、音子伽は在園中の思い出から郷愁に浸っているようだ。

クルーシュチャ方程式

音子伽との話しを終えた頃、台所から食器が割れる音がする。
様子を見れば、春日が調理を唐突に中断し、デスクに向かうのが見える。
この時、春日の形相はおよそ正常な思考をしているとは思えない。

デスクに向かった春日は、片手に薄い参考書のような物を開き、一心不乱に数式を解いている。
問題が気になった探索者が、数学に明るい者であれば、およそ一般的ではない複雑な方程式を解こうとしていることが分かるかもしれない。
集中力が凄まじく、探索者達が軽くゆすった程度では、計算の手を止めない。
幼児達は泣き出し、中高生の者は、多少慌てながらもこの状況の対処を始める。
その様子から、春日が起こした行動は日常的に行われている者だと分かるだろう。

音子伽

「ばあちゃんのコレ、まだ治ってなかったのか…。昔からこうなんですよ、時折狂ったようにあの問題に向き合うんです。俺は数学とか高校以来さっぱりですけど『クルーシュチャ方程式』とかいう難問だそうです」

年長の子供たちは、春日の奇行に手際よく対処していく。
複数人で春日を抑え、残った一人が薄い板に注射針が複数ついた奇妙な医療器具を頭部に刺す。
式を解こうと暴れる春日を抑えながら20秒程刺し続けると、春日は大人しくなる。
我に返った春日は、きょとんとした顔で皆に向き直る。

春日

「どうしたの皆?あら?康くんじゃないの久しぶりねぇ。帰ってくるなら連絡してくれればいいのに!」

春日の記憶が飛んでいることは一目瞭然だろう。
音子伽に聞けば、あの注射器のようなものを頭に刺すと、数日の記憶を代償に落ち着くのだという。音子伽が在籍していたころから対処法は変っていないそうだ。
また、いつ、誰がこの方法を始めたのかと質問すれば、かつてここに勤務していた『伊角』という職員が始めたことなのだ聞ける。

園児や音子伽が春日に現状を話すと「また私夢中になってしまっていたのね…」と恐縮した様子を見せる。また、数式を誰に出題されたのか尋ねても覚えがないようだ。
春日は、場が収まったと判断すれば飯の支度に戻る。
少しの時間をおいて、春日は人数分の夕食を食卓に並べるだろう。

この時点で、音子伽を殺害していない場合は 音子伽を殺害しない の項目に進む。

音子伽を殺害する

夕食が出される前に音子伽を殺害する場合、キーパーはプレイヤーの提案を積極的に採用して、獅子園から命じられた秘匿指令を成功に導いて良い。

殺害の現場を見られずとも、音子伽の死亡事実そのものを全員に隠匿することは難しい。
少なくとも、春日に隠しきることはできないだろう。
家族同然に接していた春日は、音子伽の死に涙を流す。

春日

「どうして…。康くんは不可解な事件を真面目に追っていただけなのに。こんなのあんまりじゃないの…」

春日は、音子伽の死が子供たちに知られないように振る舞って欲しいと探索者達に嘆願する。
せめて園児達だけでも悲しい思いをして欲しくないと考えてのことだ。
探索者達が了承すれば、可能な限り通常通りに振る舞うため、探索者の分も含めた人数分のごちそうを振る舞う。

春日

「さぁ、みんな食べましょうね。康くんはもう出発しちゃったから、おかわりしていいからねぇ」

音子伽が絶命した時点で、立てこもり事件は収束したといえる。
すみやかに外で控えている警察官達に、人質の保護や事情聴取等を引き継ぐべきだ。

ユハ・コアトルの身柄

外で控えている警察に突入の指示を出す前に、探索者達はユハ・コアトルの身柄をどうするかを決めなくてはならない。
両者の意見が違った場合、この場で話し合っても良いし、強引な探索者であれば強硬手段に移るかもしれない。

身柄を渡す

獅子園の指令を遂行する方針で一致しているのであれば、園内に隠されたARを発見すれば、現行犯逮捕が可能だ。または、音子伽殺害の犯人に仕立て上げることもできるかもしれない。
いずれの場合も、探索者達が大人しく拘束されるように言いつければ、抵抗することは無い。
その際、春日は「なんとか見逃してあげてください…。どうか…どうか…」と懇願するだろう。
探索者達は、春日の懇願に耳を傾け、身柄を渡さない方針に切り替えても良いし、法を順守する方針で聞き入れなくてもいい。

逮捕する方針に決定した場合、突入してきた警察官にユハの拘留手続きを引き継ぎ、音子伽の死亡原因についての状況説明を行う必要がある。
しかし、現場を見ている者は探索者達しかいないはずだ。
余程無茶な説明で無い限り、獅子園の手回しにより事故として処理されるだろう。

後に{HO2}に対し獅子園から連絡が入り、聴取が終了次第すぐ中央合同庁舎第二号館にある長官執務室へ来るように指示される。

{HO1}に対し、伊角からの指示は無い。
よって、この時{HO2}と足並みが揃っているのであれば、共に長官室へ向かってもいい。

身柄を渡さない

身柄を渡さない場合、警察が包囲している中をどうにかして突破しなくてはならない。
少なくとも、警官隊と野次馬が大勢いる正面から出るべきではないと分かって良い。
いずれの場合も、包囲が最も薄い裏手で爆発音が鳴る。
様子を見れば、何かの爆発物によって警官が死傷し、包囲に穴が開いたことが分かる。
脱出のチャンスはここしかない。
謎の爆発で包囲に空いた穴から脱出を図ることになるだろう。
また、一名は状況説明等の理由により現場に残るのが賢明だ。

脱出を図る際、爆音を聞きつけた他の刑事が応援に駆け付けるが、彼らは音もなく頭部を銃弾で打ち抜かれてゆく。
どんなに警戒しようとも、探索者達が撃れることはなく、無事に連れ出すことができる。
匿う場所は、探索者の自宅、公安の仮拠点などが相応しいだろう。

残った探索者は、突入してきた刑事にユハ・コアトルが逃亡したことに関しての説明をしなくてはならない。しかし、現場を見ている者は探索者達しかいない為、余程無茶な説明で無い限り、この場で執拗に疑われることは無いだろう。

いずれの場合も、{HO2}に獅子園から連絡が入り、聴取が終了次第すぐ中央合同庁舎第二号館にある長官執務室へ来るように指示される。
{HO1}に対し、伊角からの指示は無い。
よって{HO2}と足並みが揃っているのであれば、共に長官執務室へ向かってもいい。

音子伽を殺害しない

春日は夕食ができ次第、音子伽と探索者の分も含めた人数分のごちそうを振る舞ってくれる。

春日

「さぁ、みんな食べましょうね。康くんも食べていきなさい。海外に行くのなら、ばあちゃんのご飯食べるの最後になるかもしれないんだからね。ばあちゃんもう歳なんだから。刑事さん達も折角ですから是非ご一緒してくださいませ」

子供たちは「いただきます!」と合掌し、年齢相応の食欲を見せる。
音子伽もユハも、園児たちほどではないにせよ、もくもくと頬張っていく。
春日は、夕食を食べながら、音子伽に対しぽつぽつと説教を言う。

春日

「康くん。寒い国に行くなら、ちゃんと暖かい格好して寝るんだよ。暑い国でも、夜お腹出してたら風邪ひくからね」

音子伽は涙を流しながら、小さくうなずき続ける。

強行手段

平穏な食卓のなか、春日と園児達が一斉に箸を落とす。
腕を抑えていることから、目線はそこに集中するだろう。
彼女等の腕にあった切り傷が、徐々に広がっていくのが分かる。
次第に、辺りに濃厚な腐敗臭が漂いはじめ、完全に変色した腕はゴムの様に垂れ下がり、手のひらは水掻きに変形していく。
【SANc 1/1D10】

異形化した春日と園児達は、ゆっくりと立ち上がると、生気を感じない青白い顔を持ち上げ、大きく息を吸い込む。
聡明な探索者達は、異形達が何かを叫ぶのではないかと予想できるかもしれない。
そして、これから発せられるだろう奇声を聞いてはいけないと直感できる。
DEX×5のロールに成功すれば、完全に防音が間に合う。
失敗すれば、1D2のダメージと難聴の後遺症を背負うことになり、以降の聞き耳技能が半分になる。

腕が変形し、何者かに憑依されたとしか思えない元春日と園児達の異形は、探索者達が耳を抑えている隙に、音子伽を集中的に攻撃する。
元園児達の異形7人は、80%の確率で1D4ダメージ相当の先が尖った食器を突き刺す。
食器ではあるが、異形の腕から繰り出される一撃は、命を脅かすものになるだろう。
元春日だった他より一回り大きな異形は、80%の確率で異形の腕から繰り出される怪力を以って、大型の家具を叩きつけようとしている。
音子伽自身の能力では、初撃を回避することができても以降の攻撃はよけきることができない。
探索者達は、DEX×5のロールに成功すれば、いずれかのダメージを肩代わりしても良い。
また、ユハに音子伽を庇うよう命令すれば、探索者達の命令通りに補助してくれるだろう。

異形達は当然正気を失っており、音子伽が絶命するまで襲い続ける。

【戦闘】宿主(園児)×7  宿主(春日)×1

スチルイラスト: still2.png

世田谷児童園の最後

春日の耐久を0にした後、異形化した春日は、今際の際に元の人格が戻る。
うわごとの様に発せられる次の言葉は、彼女の遺言になるだろう。

春日

「嫌な思いさせてごめんねぇ。ユハはなんも悪くないからね」

この時、探索者やユハが声を掛けても、既に聞き取るだけの力が残っていない。

春日

「ユハ。前にばあちゃんが買ったおもちゃの鉄砲が残ってるから。寝れない時は、持って寝なさいね。日本で本物の鉄砲持ったら怒られちゃうからね」

そう話す間に、変形していた腕や足から順にドロドロと溶けてゆく。

春日

「刑事さん。巻き込んでしまってごめんなさいね。ユハはまだ16歳ですから、何卒よろしくお願い致します」

その言葉を最後に、頭まで黒い液状に溶けて原型を失ってしまう。
ユハは、それらを黙って聞いているが、やがてその場に座り込み、最初の一粒から堰を切ったように大粒の涙で頬を濡らしている。

スチルイラスト: still3.png

ユハ・コアトルの身柄

戦闘が起きたことから、間もなく待機中の警察官が突入してくると分かっていい。
ユハの身柄は保護という形で警察が預かることになるだろう。
探索者達は、ユハ・コアトルの身柄をどうするかを決めなくてはならない。
両者の意見が違った場合、ここで口論している時間は無い。
{HO1}が無理やり連れ去るなどしなければ、ユハは突入してきた警官隊に確保されることになる。

身柄を渡す

獅子園の指令を遂行する方針で一致しているのであれば、園内に隠されたARを発見すれば、現行犯逮捕が可能だ。状況によっては異形に対して実際に発砲しているかもしれない。
いずれの場合も、探索者達が大人しく拘束されるように言いつければ、抵抗することは無い。
後に突入してきた警察官に、ユハの拘留手続きを引き継ぎ、園内で起きたことの状況説明を行う必要がある。
しかし、現場を見ている者は探索者達しかいないはずだ。
余程無茶な説明で無い限り、獅子園の手回しにより立てこもり犯の凶行として処理される。

後に{HO2}に対し獅子園から連絡が入り、聴取が終了次第すぐ中央合同庁舎第二号館にある長官執務室へ来るように指示される。
{HO1}に対し、伊角からの指示は無い。
よって{HO2}と足並みが揃っているのであれば、共に長官執務室へ向かってもいい。

身柄を渡さない

身柄を渡さない場合、警察が包囲している中をどうにかして突破しなくてはならない。
少なくとも、警官隊と野次馬が大勢いる正面から出るべきではないと分かって良い。
いずれの場合も、包囲が最も薄い裏手で爆発音が鳴る。
様子を見れば、何かの爆発物によって警官が死傷し、包囲に穴が開いたことが分かる。
脱出のチャンスはここしかない。
謎の爆発で空いた包囲の穴から脱出を図ることになるだろう。
また、一名は状況説明等の理由により現場に残るのが賢明だ。

音子伽

「誰の悪意が絡んでいようとも、俺が始めた事件です。責任は俺がとります。俺は、家族を失ってまで自由を謳歌したいとは思えません。もちろん無念ですよ。だから…もし俺の無念を少しでも共有してくれるのなら、俺の代わりに全てを暴いてください。俺は一体何に巻き込まれたのか、警察がここまで隠匿しているものは何なのか、何もかも…。俺の望みはそれだけです」

脱出を図る際、爆音を聞きつけた他の刑事が応援に駆け付けるが、彼らは音もなく頭部を銃弾で打ち抜かれてゆく。
どんなに警戒しようとも、探索者達が撃れることはなく、無事に連れ出すことができる。
匿う場所は、探索者の自宅、公安の仮拠点などが相応しいだろう。

残った探索者は、突入してきた刑事に園内で起きたことの状況説明を行う必要がある。
しかし、現場を見ている者は探索者達しかいない為、余程無茶な説明で無い限り、
この場で執拗に疑われることは無いだろう。

いずれの場合も、{HO2}に獅子園から連絡が入り、聴取が終了次第すぐ中央合同庁舎第二号館にある長官執務室へ来るように指示される。
{HO1}に対し、伊角からの指示は無い。
よって{HO2}と足並みが揃っているのであれば、共に長官執務室へ向かってもいい。

38. 警視庁菅執務室

― 霞が関中央合同庁舎第二号館 ―

世田谷児童園立てこもり事件には、複数の結末がある。
それぞれ、長官の発言と私兵達の動きが変わるだろう。

長官執務室

警察庁庁舎の長官室に呼ばれた{HO2}、または探索者の両名は、今までとは違う緊張感を以って獅子園との面会に臨むことになるだろう。
長官室の扉を開ければ、獅子園は探索者を待っていたかのように立っている。
探索者達が入れば、応接用のソファに座るよう指示してくる。
事件の結末によって、獅子園の対応が変化するだろう。
キーパーは、探索者が辿り着いた結末に合わせて適当な対応をしなくてはならない。
以下の①~④は対応の一例になるだろう。
➀春日健在・ユハ逮捕
➁春日健在・ユハ逃亡
➂春日異形化・ユハ逮捕
➃春日異形化・ユハ逃亡

➀春日健在・ユハ逮捕

獅子園の指令を完璧に遂行した探索者は、獅子園から労いの言葉を掛けられる。

獅子園

「まずは、世田谷児童園立てこもり事件についてだ。人質として捕らわれていた園児7名、園長1名は警察が保護している。そして、君たちと共に人質として捕らわれていたユハ・コアトルは、別件逮捕の非正規拘束である為、東京拘置所の特殊独居房に収容している。おおよそ、私の期待通りといったところだ。ご苦労。引き続き君(達)の活躍に期待している」

この時、獅子園の顔の変化に注視した探索者であれば、ほんのわずか、誤差の範囲で柔和な表情をしていると思えるかもしれない。

獅子園

「忠実で優秀な君(達)に見せたいものがある」

そう言うと獅子園は席を立ち、執務室最奥にあるエレベーターの操作盤に鍵を差し込む。
数秒待つと扉が開き、獅子園はエレベーターに乗り込むと「ついてきたまえ」と言い、探索者達も同乗するように指示する。
探索者達が従えば、操作盤に2つしかないボタンの下方を押す。
エレベーターは下階に降りていくようだ。
再びエレベーターの戸が開かれると、探索者の眼前には広大な研究施設が広がっている。

➁春日健在・ユハ逃亡

獅子園は、探索者達に事件現場の説明を求める。
これは、他の刑事達に説明したものと違い、真実を話せと言われているものと理解していい。

獅子園

「まずは、世田谷児童園立てこもり事件についてだ。人質として捕らわれていた園児7名、園長1名は警察が保護している。しかし、被害者と共に人質として捕らわれていたユハ・コアトルは行方が分かっていない。この件に関して、申し開きがあるならば聞こう」

獅子園は、探索者が疑念をぶつけても、虚偽報告をしたとしても、大概は聞き流す。
獅子園にとって、探索者達が警察に疑念を抱いていることは周知であり。
虚偽報告を聞くことで、想定を確信に変える作業でしかないからだ。
探索者の話しを聞き終えると、獅子園は席を立ち、執務室最奥にあるエレベーターの操作盤に鍵を差し込む。

獅子園

「君(達)に見せたいものがある。これを見れば、君(達)の疑問の多くが解消されるだろう。ついてきたまえ」

数秒待つと扉が開き、獅子園はエレベーターに乗り込む。
探索者達が従って同乗すれば、操作盤に2つしかないボタンの下方を押す。
エレベーターは下階に降りていくようだ。
再びエレベーターの戸が開かれると、探索者の眼前には広大な研究施設が広がっている。

➂春日異形化・ユハ逮捕

獅子園は、探索者達に事件現場の説明を求める。
これは、➂の刑事達に説明したものと違い、真実を話せと言われているものと理解していい。

獅子園

「まずは、世田谷児童園立てこもり事件についてだ。人質として捕らわれていた園児7名、園長1名は痕跡も無く失踪している。これに関して、君たちが見たものを報告したまえ」

この場合、虚偽の報告をする理由はあまり無いだろう。
春日達が異形に変化したことを伝えれば、獅子園は話を進める。

獅子園

「では、その怪現象について君たちの意見を聞こう」

探索者達は、この質問に対し虚偽で答えても良いし、警察内部または長官本人を疑っている旨を話してもいい。この報告に対しての獅子園の変化は、探索者への評価だけだ。
警察全体、または獅子園個人への疑念をぶつければ「世渡りの素養は無いが、刑事としては優秀なようだ」と評され、疑念を押し殺し見て見ぬふりをすれば「賢明だな。刑事としてはともかく、世渡りの素養はあるようだ」と評される。

いずれの場合も獅子園は席を立ち、執務室最奥にあるエレベーターの操作盤に鍵を差し込む。
数秒待つと扉が開き、獅子園はエレベーターに乗り込むと「ついてきたまえ」と言い、探索者達も同乗するように指示する。
探索者達が従えば、操作盤に2つしかないボタンの下方を押す。
エレベーターは下階に降りていくようだ。
再びエレベーターの戸が開かれると、探索者の眼前には広大な研究施設が広がっている。

➃春日異形化・ユハ逃亡

獅子園は、探索者達に事件現場の説明を求める。
これは、他の刑事達に説明したものと違い、真実を話せと言われているものと理解していい。

獅子園

「まずは、世田谷児童園立てこもり事件についてだ。人質として捕らわれていた園児7名、園長1名は痕跡も無く失踪している。そして、君たちと共に人質として捕らわれていたユハ・コアトルは行方が分かっていない。この件に関して、申し開きがあるならば聞こう」

獅子園は、探索者が疑念をぶつけても、虚偽報告をしたとしても、大概は聞き流す。
獅子園にとって、探索者達が警察に疑念を抱いていることは周知であり。
虚偽報告を聞くことで、想定を確信に変える作業でしかないからだ。
探索者の話しを聞き終えると、獅子園は席を立ち、執務室最奥にあるエレベーターの操作盤に鍵を差し込む。

獅子園

「君(達)に見せたいものがある。これを見れば、君(達)の疑問の多くが解消されるだろう。ついてきたまえ」

数秒待つと扉が開き、獅子園はエレベーターに乗り込む。
探索者達が従って同乗すれば、操作盤に2つしかないボタンの下方を押す。
エレベーターは下階に降りていくようだ。
再びエレベーターの戸が開かれると、探索者の眼前には広大な研究施設が広がっている。

39. 第二合同庁舎地下研究所

― クローン実験 ―

様々な研究室に、多くの研究員が出入りしている様子が見れる。
敷地の殆どは、透明な液体が入った大きなカプセルが柱の様に乱立しており、中には肉片のような物体が浮いているのが分かる。

探索者が何かしらの反応をしている間に、獅子園の訪問を見つけた研究員の一人が、丁寧な挨拶をしながら近づいてくる。
その様子は、やけに企業じみており『怪しい地下研究所』という第一印象と反している。
この事が、余計に探索者達の不安感を増大させるかもしれない。
獅子園は寄ってきた研究員の経過報告を聞き終えると「丁度いい」と言い、その研究員に施設の解説を指示する。
研究員は了承し、探索者達に定型的な施設の概要を話す。

研究員

「こちらは、警察庁が厚生労働省認可の元、人体のクローン培養を研究する施設となっております。人体のクローン化は随分前から成功していますが、世論を懸念して民間に公開はしておりません。検体は、刑事事件を起こした警察官、または殉職した警察官の遺体を使用しており、事件当時もしくは生前に天涯孤独である者に限定されています。既に数十名の警察官のクローンが活動しており、全ての検体の位置情報がモニタリングできています。また、クローン体の脳を構築する段階で自主性を低下させる研究が進められており、現時点の成果としては、遵法精神を増加させることに成功しています。これによるメリットは、検体の犯罪発生率を限りなく0にできることです。警察官、ゆくゆくは政治家・官僚・公務員をこのクローンに任せることで、不祥事が起きない安定した国家運営を成すのが、当研究の最終目標となっております。」

研究員は、上記を淡々と解説していく。
探索者の倫理観でこの事実をどう受け止めるかは、各キャラクターによるだろう。
解説が終わると、獅子園が研究員を下がらせ、探索者達を執務室まで戻るよう指示する。

獅子園

「ここでは仕事の邪魔になる。後は上で話すとしよう」

40. 警視庁長官執務室

― 霞が関中央合同庁舎第二号館 ―

執務室に戻れば、獅子園はデスクに腰掛けると、改めて探索者達に向き直り結論を語る。

獅子園

「君達が見たものが全てであり、事実である。当然、研究は君たちの感情論一つで左右されるようなものではない。ただ、事実を知った君たちは、この件について秘匿するべきだ。さもなくば、音子伽刑事と同様の末路を辿ることになるだろう」

基本的には、この件についての探索者の意見は聞き流される。
しかし、あまりにも納得がいかない様子を見せたり、主体性の低下について問えば、獅子園の刑法に対するスタンスを聞くことができるかもしれない。

獅子園

「納得がいかないようだな。少し講義をしてやろう。現存する最古の法は『ウル・ナンム法典』という人類最古のシュメール文明で発布された刑法だ。君たちは、初めて整備されたこの法典が誰の発案だと思うかな?答えは神だ。当時、まだ神と人が近くにいた頃、当時の王であるウル・ナンムが、神の指示のもとに法典を作り上げた。それは、人は神が厳格に管理せねば、殺し、奪い、犯す愚かな生物だと判断されたからに他ならない。つまり法とは、神が人を管理するために制定した神託なのだ。人間の自主性とは悪意と同義で、法を破る源泉でしかない。民間は自由で構わない。だが、神の審判の代行者、その先兵である警察官に自主性など必要ない。刑法、つまりは神の意思のままに、ひたすら公正であればいいのだ」

これに対する探索者の意見は、執務室に鳴り響く着信で中断されてしまうだろう。
電話をとった獅子園は、通話先の報告を黙って聞き、最後に確認と指示を出す。

獅子園

「分かった。采配は警視総監に任せる。東京に隣接した各県とも連携を取り、ただちに検問を設置しろ。嘉羽 羊介だけは絶対に逃がすな」

CASE:3
脱獄囚ハイジャック事件

通話を終えた獅子園に慌てる様子はないが、緊迫感を以って探索者達に向き直る。
事態が急務であることは分かって良い。

獅子園

「話は後だ。東京拘置所から複数の脱獄者が出た。殆どの拘留中被疑者、服役中の受刑者までもが脱獄しており、正確な人数は現在把握困難だそうだ。早急に対処にあたらなければ、民間に及ぶ被害は計り知れん。特別収容区の非正規拘束者の中には、報道できない凶悪事件を起こした警察関係者もいる。まずは刑事としての職務を全うしろ」

探索者が一番気がかりなのは嘉羽 羊介の行方だろう。
この事を獅子園に尋ねれば、嘉羽は脱獄可能な状況だったにもかかわらず収監されている独居房に残っていると聞ける。
このことから、脱獄者の再逮捕及び逃亡を阻止することが優先される。
中でも国外逃亡が一番の問題だ。難易度は高くとも、決して不可能ではない。
密航、偽造パスポート、変装等、方法を挙げればきりがない。

獅子園

「逃亡阻止のためとはいえ、船、飛行機の全便欠航は難しい。よって欠航は断念し、全ての国外行き船便、航空便に私服警官を配備する。全便となると各便3人が限界だ。仮に逃亡犯が乗っていた場合、出入り口の封鎖、犯人の確保等柔軟に対応しろ」

脱獄者の対処は、警察の全勢力を以って臨むことになる。
対応すべきは国外逃亡だけでなく、道路の封鎖、脱獄囚が起こす事件の対応等、人員はいくらいても足りないだろう。

獅子園

「丁度いい。スカイマーシャルとして現場に出ている検体がいる。彼を君たちに就けよう。安全性をその目で確かめると良い」

そう言って資料とタブレットを渡される。
資料には『毬井 秀人』という刑事の顔写真とプロフィールが記載されている。
毬井の見た目は、人懐っこそうな童顔の青年だ。

タブレットには『ココペリ』という見慣れないアプリケーションが入っており、立ち上げれば検体の心拍と位置情報がリアルタイムで表示されるものだと分かる。
操作方法は直感的で質問するまでもない。
検体名を入力すれば、地図が開き現在位置がピンで表示される。
地図の拡大縮小もできるようだ。

獅子園

「搭乗便に関しては後に通達があるだろう。成田で待機しておけ」

そういうと、獅子園は関係各所への連絡を始める。
探索者達も、いぞぎ成田空港へ向かうべきだ。

41. 成田国際空港

― 検体:毬井 秀人との出会い ―

成田へ到着すれば、群衆に紛れている見慣れた者を見つけることができるかもしれない。
既に多くの警察官が待機しているようだ。

この時点で既にココペリを使いこなし、毬井の位置を確認している探索者であれば、既に毬井刑事は空港に到着していることが分かって良い。
同じ箇所をウロウロしていることから、探索者達を探していることが予想できるかもしれない。
探索者達から合流してあげれば、涙目になっている毬井は人当たりの良い挨拶を交わしてくる。

毬井

「よかったー!合流できなかったらどうしようかと思いました…。初めまして。毬井 秀人と申します。本日は宜しくお願いします!」

毬井は、自身がクローン体であることを自覚している。
しかし、基本的に自身がクローンであることは秘匿するように指示されている為、探索者以外に明かすことは無い。
また、自主性を低下させられていることから、善悪の基準を法と規則に委ねており、例えば、拳銃であれば発砲許可が正式に下りるまで絶対に使用しないし、信号一つであっても決してルールを犯さない。

毬井に過去の記憶について尋ねれば、オリジナルの記憶は保持していないと聞ける。
しかし、オリジナルに関しての資料を読み込んでいるため、親族、または配偶者でなければ違和感に気付けない程、完璧に成りきっている。
指示された内容に関しての異常な勤勉さも、自主性低下の影響かもしれない。

毬井の行動優先順位は、
1.法律
2.規則
3.管理者(探索者)の指示
4.自身の判断
である。

探索者が『毬井 秀人』というクローン体に関しての理解を深めている間に、探索者達が搭乗する便についての指示が届く。

搭乗便

17:05 成田国際空港→ロサンゼルス国際空港
JAL・Boeing777・JL66

チケットは、ビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミーの3種用意されており、3人で分担して警備することになる。
探索者達は時間まで待機し、一般客に紛れてJL66便に搭乗することになる。
なお、搭乗前の時点で見るからに怪しい人物は見当たらない。

42. JL66便

― ハイジャック方式 ―

Boeing777は、先頭からファースト、ビジネス、プレミアムエコノミー、エコノミーの4クラスあり、ファーストとビジネスは客席数が少ない。
よって、ビジネスクラスを担当する者は、同時にファーストクラスの警戒を行うことになる。
探索者達は、誰がどのクラスに座るかを決めなくてはならない。
毬井は探索者達の指示に従う。

離陸直後

JL66便は、問題なく離陸を始める。
人の心理を読むことに長けた探索者であれば、乗客の様子を窺うことができる。
この時、離陸中であることからベルト着用サインが点灯している。
よって、自身がいるクラスの乗客しか確認することができない。

ファースト&ビジネス

ファーストクラスに、落ち着きがない様子の乗客がいる。
身なりの良い男性が、スマホを頻繁に確認している様子が見えるかもしれない。
また、政治家の顔を把握している探索者であれば、落ち着きのない男性客は厚生労働大臣であることが分かって良い。

プレミアムエコノミー

若干の違和感を感じる行動を取っている乗客がいる。
ニット帽を被った若い男性が、待機しているCAの様子を頻繁に伺っているのが見えるかもしれない。

エコノミー

全ての客に違和感を感じることは無い。
しかし、子供の一人がCAを呼び「どうしてもトイレに行きたい」と言い、確認を取っている様子を見ることができる。
許可が下りたようで、その子供はいそいそと最後部のトイレに行き、スッキリした顔で戻ってくる。

高度10000ft

ベルト着用サインは通常であれば5~10分程で消灯し、自由に動けるようになる。
しかし、15分経っても消灯する様子が無い。
外を確認すれば、十分の高度を保っているように見えるし、空は晴れており一見問題が無いように感じていい。
各クラスの様子は以下のようなものになる。

ファースト&ビジネス

落ち着きがない様子の乗客が、機内WiFiが使えないことでクレームを入れ始める。
耳聡い探索者であれば、大事な連絡が滞り、このままでは損害が出る等の内容で訴えているのが聞けるかもしれない。

プレミアムエコノミー

目敏い探索者であれば、ニット帽を被った若い男性客が、CAを呼びつけて一枚のメモ用紙を渡しているのが見える。
CAは苦笑いをしながら紙を受け取り、内容を確認せずに懐にしまって席に戻る。

エコノミー

後方で破裂音がする。
最後部に近い乗客は驚き、各々後方を確認している。

高度30000ft

ベルト着用サインが消灯すると、乗客たちはベルトを外してトイレに行ったり、barカウンターにドリンクを頼みに行き始める。
各クラスの様子は以下のようなものになる。

ファースト&ビジネス

落ち着きが無かった乗客は、連絡ができたようで平静を取り戻し、入眠している。

プレミアムエコノミー

耳聡い探索者であれば、ニット帽を被った若い男性客が、CAに対し「今そのメモを読まないと大変なことになる」と伝えているのを聞けるかもしれない。
メモを読んだCAは立ち上がり、コックピットへ歩いていく。

エコノミー

特に変わった様子はない。

高度20000ft

機体の揺れに違和感を感じることができるかもしれない。
一定間隔で左右に旋回を繰り返しているようだ。
この時、機体は高度を下げており、既に進路を変えてロサンゼルスへは向かっていないが、このことを探索者が知るのは困難だろう。

ここで{HO2}に電話が入る。本来、政府関係者以外は通話が禁止されている為、電話に出る際はイヤホンなどを付け、基本機内側からの応答はせず、黙って内容を聞くことがマニュアル化されている。

刑事

「JL66からトランスポンダ。スコーク75(7500)が発信されました。当機はハイジャックされています。進路を横須賀米海軍施設に変更、既に着陸許可が下りています。犯人は拳銃を所持しており「最後尾のトイレに爆弾を仕掛けた」という内容がCAを通して機長に伝えられたと報告がありました。現在は、犯人の横に着席させられたCAが人質となっていると思われます。要求は1億5000万円とフロントパラシュート、バックパラシュートを各2点、そして着陸予定のロサンゼルス国際空港に逃走用のタンクローリーです。念のため、ロサンゼルス国際空港に用意されています。搭乗している{HO2}、{HO1}、毬井刑事の3名は爆弾の確認と処理、可能であれば犯人の拘束を速やかに行ってください。また、スコーク75に偶然気付いた横須賀米海軍施設所属のヘカート・フロッガー中尉が、客室から死角となる位置から戦闘ヘリで後方を追尾しています。よって、犯人がパラシュートで飛び降りることを選択し、乗客に危険が無いと判断された場合は、脱出を容認しても構いません。パニックを防ぐために、乗客に気付かれないことが望ましいですが、最優先は乗客の安全と犯人の確保です。後は現場の判断にお任せします。以上になります。ご武運を」

{HO2}は、速やかに他の二名に伝達し、対処を開始しなくてはならない。
課題は大きく3点ある。
乗客の安全確保、爆弾の有無を確認・処理、犯人の拘束だ。
探索者達は、このハイジャック事件を自身の判断で解決に導かなくてはならない。
例えば、各課題に一名ずつで臨んでも良いし、犯人確保を2名が行い、爆弾処理を一名が行っても良い。

毬井は、スカイマーシャルである自分が内部構造に一番詳しいという点から、爆弾処理役をかって出る。もちろん、毬井は探索者達の指示を優先する為、この意見を却下しても構わない。

客席を確認すれば、プレミアムエコノミークラスにいる白いニット帽の男性の横にCAが座っているのが分かる。
他に同様の例が無い為、このニット帽の男がハイジャック犯であると断定して良い。
探索者達は、相談して決めた各々の任務を遂行することになるだろう。

43. ハイジャック犯確保

横須賀米海軍施設に緊急着陸する為に、高度を下げたことから、客席の窓から地上が見えるようになる。目敏い探索者であれば、目的地へ向かっていないことに気付いたニット帽の男が、CAに拳銃を突きつけて何かの指示を出しているのを見ることができるかもしれない。

耳聡い探索者であれば、ニット帽の男が「エコノミークラスのエアステアを開け」と指示しているのを聞き取ることができるかもしれない。

探索者達は、早急に各任務を開始するべきだ。

爆弾処理

最後尾のトイレをどんなに散策しても、爆弾らしきものは見当たらない。
しかし、後部ではガタガタと何かが外れているような音がするのを聞けるかもしれない。
散策を終えた頃に耳鳴りがすることから急激に気圧が変化したのを感じ、客室内には警告音が響き渡る。
この際、エコノミークラスに戻れば、客席の上部から酸素マスクが下りており、エアステアが開かれているのが分かる。
乗客に何があったのか問えば「パラシュートを付けた子供が外に飛び出した」と聞ける。

爆弾処理を毬井(検体)に任せた場合

この時、脱獄したオリジナルの毬井 秀人は、トイレでクローン体を殺害して入れ替わる。
遺体は鍵をかけたトイレの一室に隠されており、ハイジャック犯確保中の騒動に紛れ、開かれたエアステアから遺体を放り投げる。
もし、ココペリの確認を怠らない探索者がいた場合、殺害直後であれば心拍が停止していることが分かるし、遺体を捨てられた後であれば、検体が飛行機内にいないことが分かる。
位置情報を確認すれば、伊豆山間部にあると表示される。
【SANc 0/1】

犯人確保

班員確保の隙を伺っている探索者は、耳鳴りがすることから急激に気圧が変化したのを感じる。直後、客室内に警告音が響き渡り、酸素マスクが下りてくる。
エコノミークラスからは悲鳴が上がっているようだ。
それと同時にニット帽の男が立ち上がり、CAのこめかみに銃を突き付けて乗客に脅しかける。

白瀧

「全員動くな!着席して大人しくしていれば殺さねえ!だが、立ち上がったり怪しい行動を取ったやつがいればブチ殺す!」

ニット帽の男は、機内に武装した警察官がいることを知らない。
拳銃技能に成功し、合計で5ダメージ以上与えれば、白瀧は人質と拳銃を手放す。
その後の確保は容易だろう。
この時、拳銃技能が60以上の探索者であれば、武器だけを弾くことができるかもしれない。
この試みは、拳銃技能を半分の値で成功した場合も成功して良い。
この場合でも犯人確保は成功する。

拳銃が当たらなかったり、合計ダメージが5以下だった場合は、逆上した犯人によってCAの頭部が打ち抜かれる。
【SANc 1/1D3】

その後、探索者とニット帽の男による銃撃戦になってしまうだろう。

【戦闘】白瀧 涼平

犯人を無力化することに成功すれば、プレミアムエコノミークラスの乗客は次第に落ち着きを取り戻していくだろう。
白瀧が生きて意識を回復させることができれば、この場で聴取をすることもできる。
話してみればかなり小心者の男で、探索者の問いにも観念した様子で正直に答える。

想定される質疑応答一覧

Q.何者だ?
A.白瀧 涼平(28)無職
Q.拘置所からの脱獄囚か?
A.違う。脱獄があったことすら知らない。
Q.目的はなんだ?
A.借金苦で金が欲しかった。
Q.拳銃をどこで手に入れた?
A.ドロッセルマイヤーと名乗る男から貰った。
Q.どんなやつ?
A.完全に子供の見た目をした男。しかし、話し方や内容が子供とは思えなかった。
Q.いつ、どこで会った?
A.今日の昼過ぎに成田空港で会った。
Q.なんで空港にいた?
A.闇金の取り立てからから逃げる為に地方に行く予定だった。
Q.犯行手順を誰かに教わった?
A.ドロッセルマイヤーを名乗る子供に1~10まで全て教わった。手順通りにやれば成功すると言われ、便まで指定されていた。
Q.なぜパラシュートを2セット用意させた?
A.教えられた通りだからよくわからない。1つは自身で持ち、もう1つはエコノミーのエアステア前に置くように教えられた。予備だと思っている。
Q.嘉羽 羊介を知ってる?
A.誰?
Q.大人しくしてくれる?
A.闇金に追われるくらいなら刑務所暮らしでいいかなと思っている。

この質疑応答から、白瀧が脱獄囚では無い事が分かって良い。
質問内容によっては、今回のドロッセルマイヤーの手口に違和感を覚えるだろう。
拳銃に詳しい探索者であれば、白瀧が所持していた拳銃は品質の悪いトカレフであることが分かるかもしれない。
嘉羽の商品を良く知る{HO1}であれば、このトカレフが嘉羽の商品であるとは考え難い。
いずれにしても、白瀧に反抗の意思はなく、あっさりと拘束される。

直後、機体後部から破裂音が鳴り、機体が大きく揺れる。

犯人確保を毬井(検体)に任せた場合

法と規律、標準的倫理観に基づき、可能な限り最良の状態で白瀧を確保する。
犯人を落ち着かせ、投降を促し、隙を見て拘束している。
白瀧の状態は軽傷で済んでいるか無傷であり、拘束後の聴取も問題なく終えているだろう。

安全確保

耳鳴りがすることから急激に気圧が変化したのを感じる。直後、客室内に警告音が響き渡り、酸素マスクが下りてくる。
エコノミークラスからは悲鳴が上がっているようだ。
乗客の安全を優先するべく行動している探索者は、各所で柔軟に対応することができる。
例えば、犯人確保に問題が起きていれば補助することができるし、ココペリを頻繁に確認できるだろう。

毬井(検体)が犯人確保に向かった場合

犯人確保に問題が無さそうであれば、エコノミークラスの乗客が悲鳴を上げているのを優先的に確認する場合があるだろう。
エコノミークラスでは突風が吹いており、エアステアが開かれているのが分かる。

エアステア前には、パラシュートを付けた小学生高学年に見える子供が、女児童の首を抑えて拳銃を突きつけている。

子供

「意外に隙を見せないもんだなぁ。流石は僕のクローンだ。今回はここらが引き際ですね。あぁ、そうだ。僕に構っている暇があったら、脱出の準備をした方が良いですよ。多分この飛行機堕ちるので。あ!ちなみに僕のせいじゃないですからね!」

そう言って、人質の女児童を抱えたままエアステアまでゆっくりと後退していく。
女児童を盾にしていることで、毬井のみを無力化するのは難しい。
毬井は、エアステアから飛び降りる直前に以下の様に言い残す。

子供

「ドロッセルマイヤーが世界をあるべき姿に戻します!魔女に操られた愚かな鼠の皆様!巻き込まれないようにご注意を!」

そう言って人質の女児童と共に空中に飛び出す。
その際、目敏い探索者であれば、子供の外見が、成人男性に変化するのを見れるかもしれない。
その容姿は、毬井 秀人と完全に一致している。
【SANc 1/1D4】

直後、機体後部から破裂音が鳴り、機体が大きく揺れる。

毬井(検体)が爆弾処理に向かった場合

この時点で、ココペリを確認した探索者は、毬井(検体)の心拍が止まっていることが確認できる。
救援に向かうのであれば、エコノミークラスとトイレの間で、オリジナルの毬井 秀人と鉢合わせることになるだろう。
この時、脱獄した毬井(オリジナル)は、トイレでクローン体を殺害して入れ替わっている。
毬井(オリジナル)は探索者に虚実織り交ぜて場を誤魔化す。

毬井

「爆弾処理終わりました!(嘘)ですが、後方でガタガタ音がするんですよね…(本当)機体のトラブルが起きているかもしれません」

ひとまず様子を窺うことにする場合、毬井から犯人確保の補助に向かうことを提案される。
この意見に賛同するのであれば、犯人確保に向かった探索者と合流できる。
しかし、この意見を却下する場合、毬井は強く反対する。
聡い探索者であれば、毬井の様子に違和感を覚えることができるかもしれない。
自主性が低下させられているクローン体は、管理者の指示に従うはずだからだ。

毬井の正体を暴く

この時点で、毬井の検体とオリジナルが入れ替わっていることを暴いた場合、毬井(オリジナル)は本性を現し、探索者に拳銃を向ける。

毬井

「まさかクローン体をモニタリングできているとはねぇ…。しかし、保険はかけておくもんですね。あなたを殺してトンズラさせてもらいます」

【戦闘】毬井 秀人

毬井(オリジナル)を無力化することに成功した後にトイレを確認すれば、施錠されたままの個室内に毬井(検体)の遺体を発見することができるだろう。

直後、機体後部から破裂音が鳴り、機体が大きく揺れる。

44. JL66便の墜落

けたたましい警告音のあと、日本語と英語で無機質な機内アナウンスが流れる。

アナウンス

「ただいま緊急降下中です。着席し、座席上部にある酸素マスクを強く引いてつけてください。手を後頭部に回し、頭を前の座席につけてください」

客は混乱しながらもアナウンスの指示に従っている。
CAは乗客の補助を行っているが、その顔は青ざめているだろう。
窓から外を除けば、飛び降りれるのではないかと錯覚するほど、地上が近くに見える。

機長

「皆様。こちらは機長です。機体に重大な損傷が確認されました。当機は間もなく山間部に緊急着陸を行います。このような事態は非常に稀ですが、どうか落ち着きを保ってください。耳を傾けて頂きありがとうございました。良い結末を祈りましょう」

乗客の顔に絶望の色が浮かぶ。
この時、人の心理を読むことに長けた探索者であれば、アナウンスの内容に反して、絶望と諦めが混じっている心情を読み取ることができるかもしれない。
また、毬井(検体)が健在で機内にいるかどうか、また毬井(オリジナル)が機内にいるかどうかで、乗客の命運は大きく左右される。

➀検体生存

毬井(検体)が無事である場合、探索者達を集めて機長のサポートを提案する。

毬井

「まずいですね。後方の破裂音は、恐らく垂直尾翼が損傷した音でしょう。破損の状態にもよりますが、この揺れの多さは油圧ポンプがダメになり、手動でエンジン出力を調節して飛ぶしかない状態だと推察できます。こうなってしまっては、機長の総飛行時間とかそういう問題じゃないでしょうね。アナウンスの様子を聞くに、諦めてしまっているように聞こえました。僕はコックピットに行ってサポートしたいと思います。お二人はなるべく後方の座席で対ショック姿勢をとってください」

検体である毬井は、探索者の指示通りに動く。
余計なことをするなと言えば、大人しく席につき耐衝撃姿勢を取る。
毬井の提案に賛成すれば、毬井はCAに身分を明かし、コックピットに入っていく。

墜落

機体は大きく揺れながらも、身体は思ったより負荷を感じないだろう。
焦げ臭いにおいが機内に充満していることから、どこかで火災があったのかもしれない。
乗客はパニックになり、衝撃姿勢を解いてしまっている者や、遺書を書いているものまでいる。
そんな混沌とした状況で、機内放送が聞こえる。

毬井

「当機は間もなく墜落します。頭を下げてください!きっと大丈夫です!恐怖では無く、希望を持ってください!」

放送の声は毬井(検体)のものだと分かる。
この根拠のない激励に意味があったかどうかは分からない。
しかし、少なくとも多くの乗客がこの言葉を聞いて、再び姿勢を戻した。

直後、衝撃・爆音・悲鳴・砂埃が同時に発生して1D6のダメージを受ける。
探索者は、あまりにも多くの出来事が同時に起こることから、何が起きたのか把握することができないかもしれない。

機内に静寂が訪れる。
機体の損傷が激しく、砂埃や煙で周囲の機内の状態が良くわからない。
被害状況を確認すると、絶望的な状況から半数以上の乗客が生存していることが確認できる。
墜落の性質上、前方の客の被害が大きく、後方の客は殆どが無事であるのが分かる。
特に子供は、プレミアムエコノミーより後方に席をとっていたおかげで、全員が無事だ。
しかし、先頭のコックピットにいた毬井(検体)を含めた操縦士、乗務員は亡くなっている。

自力で立ち上がれる者も相当いることから、皆で協力して動けない者を救助することになる。

この時、運が良く目敏い探索者であれば、生きている厚生労働大臣の頭部が音も無く撃ち抜かれる瞬間を見ることができるかもしれない。
または、この決定的瞬間を目撃していなくても、後に厚生労働大臣の安否を確認する探索者がいた場合、頭部に銃痕があるのを発見できるかもしれない。

数分後、ヘリコプターの音が聞こえてくる。
上空を確認すれば、1機の戦闘ヘリが離陸していくのを見ることができるだろう。
救助を呼び掛けてもヘリは旋回を繰り返すのみで、着陸する様子も誰かが降下する様子もない。数分旋回した後、ヘリは飛び去ってしまう。

数時間後、自衛隊と米海軍がやってきて、探索者達を含めた乗客全員が救助される。
救助ヘリで現場を後にする際、目敏い探索者であれば、米海軍が救助に紛れて破損した機体の一部を回収しているのを目撃できるかもしれない。

➁検体死亡・オリジナル逃亡

毬井(検体)が死亡・または機内から消失している場合、機体は順当に墜落してしまう。
また、機長の様子を確認したいと打診しても、マニュアル上飛行訓練を修了していない者は、政府関係者であろうともコックピットに入れることはできないと却下されてしまう。

焦げ臭いにおいが機内に充満していることから、どこかで火災があったのかもしれない。
乗客はパニックになり、衝撃姿勢を解いてしまっている者や、遺書を書いているものまでいる。

墜落

機体は急降下を始める。
実際は違うのだろうが、垂直に落ちているのではないかと錯覚するほどの負荷が探索者を襲う。
直後、衝撃・爆音・悲鳴・砂埃が同時に発生して1D10+2のダメージを受ける。
探索者は、あまりにも多くの出来事が同時に起こることから、何が起きたのか把握することができないかもしれない。

意識を保っている探索者は機内に静寂が訪れるのが分かる。
機体の損傷が激しく、砂埃や煙で周囲の機内の状態が良くわからない。
被害状況を確認すると、後部2列より前の全ての乗客が絶命していることが分かってしまう。
【SANc 1D3/1D6】

数分後、ヘリコプターの音が聞こえてくる。
上空を確認すれば、1機の戦闘ヘリが離陸していくのを見ることができるだろう。
救助を呼び掛けてもヘリは旋回を繰り返すのみで、着陸する様子も誰かが降下する様子もない。数分旋回した後、ヘリは飛び去ってしまう。

数時間後、自衛隊と米海軍がやってきて、探索者達を含めた乗客全員が救助される。
救助ヘリで現場を後にする際、目敏い探索者であれば、米海軍が救助に紛れて破損した機体の一部を回収しているのを目撃できるかもしれない。

➂検体死亡・オリジナル生存

毬井(検体)が死亡・または機内から消失している場合、機体は順当に墜落してしまう。
また、機長の様子を確認したいと打診しても、マニュアル上飛行訓練を修了していない者は、
政府関係者であろうともコックピットに入れることはできないと却下されてしまう。

焦げ臭いにおいが機内に充満していることから、どこかで火災があったのかもしれない。
乗客は、パニックになり衝撃姿勢を解いてしまっている者や、遺書を書いているものまでいる。
そんな状況で、{HO2}の衛星電話が鳴る。

研究員

「検体:毬井 秀人の心拍が停止し、位置情報が伊豆山間部になっています。何か問題がありましたか?」

ココペリを確認すれば、毬井(検体)がこの場にいないことが分かってしまう。
しかし、毬井は確かに機内にいる。
【SANc 1/1D4】

探索者が気付いたとき、毬井(オリジナル)は開かれたままのエアステア前にパラシュートを装備して立っている。

毬井

「僕はお先に失礼します!僕を恨まないでくださいね?それは逆恨みってやつです。間抜けなあなた達が悪いんですから。そんじゃあ来世までサヨウナラ~」

と言い残すと空中に飛び出していく。
毬井の落下を見届ける間もなく、機体は急降下を始める。
実際は違うのだろうが、垂直に落ちているのではないかと錯覚するほどの負荷が探索者を襲うだろう。

直後、衝撃・爆音・悲鳴・砂埃が同時に発生して1D10+2のダメージを受ける。
探索者は、あまりにも多くの出来事が同時に起こることから、何が起きたのか把握することができないかもしれない。

意識を保っている探索者は機内に静寂が訪れるのが分かる。
機体の損傷が激しく、砂埃や煙で周囲の機内の状態が良くわからない。
被害状況を確認すると、後部2列より前の全ての乗客が絶命していることが分かってしまう。
【SANc 1D3/1D6】

動ける探索者が生存者を救助するなどしていると、複数の銃声が響く。
助かった乗客の頭部が破裂している。
辺りを確認すると、遅れて降下した毬井(オリジナル)が、生き残りの女児童の首を抱えて、探索者に散弾銃を向けている。

毬井

「全滅かと思ったのに、しぶといですねぇ。まぁでも僕に出会ったのが運の尽きだ。全員大人しく死んでください。ドロッセルマイヤーは、真の自由を勝ち取るために、魔女に操られた愚かなネズミを狩らなくてはならないのです」

そういうと、探索者達を残して生き残りの乗客の頭部を次々と打ち抜いていく。
散弾銃で撃たれた乗客の頭部は弾け飛び、脳漿と頭蓋の破片を散らせて絶命する。
【SANc 1/1D4】

最後に、恍惚の表情をした毬井は探索者達に銃口が向るが、毬井の散弾銃から弾が発せられることは無い。突如、毬井の頭部が破裂する。
捉えられていた女児童は解放され、毬井は頭部側面から血を吹き出しながら倒れる。
遺体を確認すれば、何者かに打ち抜かれたのだと分かって良い。
しばらくすると、軍服を着たヘカートが現れる。

ヘカート

「ったくパンパンパンパン撃ちやがって、何なんだ?このとっちゃんぼうやは。生き残りはお前達だけか?」

突如現れたヘカートはそのようなことを英語で話しながら被害状況を確認する。
生き残りがいないのを確認すると、探索者達を独断で救助してくれると言う。

ヘカート

「お前達だけなら勝手に救助しても大して問題にならんだろう。歩けるか?」

探索者達が了承すれば、ヘカートが乗っていた戦闘ヘリに同乗して、現場から救助されることになる。
この際、ヘリ内でヘカートに何を質問しても「雇われ兵士のおっさんは何も言えないんだよ」と言って誤魔化される。
ただ「ルルやユハは元気か?」等と聞かれることから、多くのことを知っているようだ。
横須賀海軍施設で降ろされた探索者達は、すぐさま病院に搬送されることになる。

45. 事件収束

今回の事件は、いずれの場合であっても解決とは言い難い結果になるだろう。

ハイジャックを実行したのは白瀧 涼平で間違いない。
しかし、白瀧はドロッセルマイヤーを名乗る男に手引きされていたようだ。
借金苦に付け込まれ、犯罪を教唆した手口は、従来のドロッセルマイヤーとは違った印象を受けるかもしれないが、それはこれまでの事件に関わってきた者だけが感じるものだろう。

時間を置いて集団脱獄事件の脱獄者リストが警察関係者のごく一部の者にのみ公開される。
その中には、毬井 秀人、『青塚中学校クラスメイト児童皆殺し事件』を起こした夏目佐子、『世田谷児童園立てこもり事件』の結末によっては音子伽などが載っている。

JL66便は垂直尾翼が破損していたことが、機長と管制塔の会話から判明する。
多くの関係者や有識者が外部からの衝撃以外での破損は考え難いと述べるが、正式な原因の発表はされないままだ。

毬井(オリジナル)が機体から脱出している場合、人質となっていた女児童の遺体が発見される。
女児童の頭部は大きく欠損しており、至近距離から散弾銃で撃たれたことが死因であるということが警察内部だけで共有されるだろう。

いずれの場合でも、毬井(検体)は死んでしまったはずだが、死亡者リストに毬井の名前は無い。
詳しく調べる者がいた場合、スカイマーシャルの人員の中に毬井の名が残っており、今も生きて勤務していることになっていると分かるかもしれない。

探索者達は、怪我の具合に合わせて適当な日数を療養した後、現場復帰することになる。

CASE:4
立川拘置所空爆事件

数日間の療養を終え、現場復帰が可能になった探索者達は、
{HO2}には獅子園から連絡が入り、警視庁に帰還次第警察庁庁舎の長官室に一人で来るように指示される。
{HO1}には長らく連絡が取れなかった伊角から電話がある。

46. 警視庁長官執務室

― 獅子園の指令 ―

長官室の扉を開ければ、獅子園は探索者を待っていたかのように立っている。
探索者達が入れば、応接用のソファに座るよう指示してくる。

獅子園

「嘉羽羊介を立川拘置所に移送する。そして、君にはその道中に嘉羽を殺処分してもらう。やつは日本の、いや世界の脅威だ。神を脅かす過去最悪の犯罪者だ。この期を逃してはならない」

唐突な指令に疑問を投げかけたり難色を示せば、強硬手段に踏み切る理由を明かす。

獅子園

「先日のJL66便の墜落事故は、垂直尾翼が外部から破壊されたことで起きた。油圧ポンプに損傷があったことから、垂直尾翼は機体後方からの衝撃で破壊されたことになる。‘‘飛行中の機体を後方から‘‘だ。これが事故で起こったとは考え難い。原因究明のため、自衛隊・警察・航空関係者合同で機体を調べたが、垂直尾翼の破片は一つも見つからなかった。野次馬として事故現場を見に来ていた近隣住民から話を聞いたところ、米海軍兵が破損した機体の一部を持ち去ったのを全員が目撃している。以上のことから、スコーク75の発信前から近くを飛行していた戦闘ヘリの操縦士『ヘカート・フロッガー』が容疑者に上がった。この男は元アメリカの特殊部隊Navy SEALsに所属していた米海兵だったが、SEALsの定年である28歳を迎えると海軍を退役し、民間警備会社を立ち上げ、数年間私兵として嘉羽を護衛していた。そして、嘉羽が自ら拘束された前日、突如米海軍に復帰している。このことから、米海軍内部にまで嘉羽の息が掛かっている可能性は非常に高い。元特殊部隊所属の腕であれば、飛行中の旅客機であろうとも垂直尾翼を狙って狙撃することも可能だろう。嘉羽をこのまま放置すれば、民間への被害は拡大していく一方だ。今は、法務省管轄の東京拘置所に居続けることで、警察庁が手を出せないように身を守っている。しかし、東京拘置所の機能に問題が起きた今ならば、被疑者である嘉羽は警察の手によって移送することができる。嘉羽を始末するのはこのタイミングしかない」

ユハの時と同様に、嘉羽を秘匿で殺処分した場合は、事故死として処理するというものだ。
大勢の犯罪者が脱獄した今、処理はどうとでもなると言う。
探索者は、少なくとも殺害の隠匿には気を配る必要は無いと分かって良い。
嘉羽を殺すべきか殺さないべきか、それが問題だ。

獅子園

「{HO1}と合流次第、東京拘置所へ向かい、嘉羽の移送を開始しろ。君は、国家という現代社会おいて神に等しい後ろ盾の元、法の裁きを与える神の先兵だ。何も迷うことは無い。恐れることもない。働きに期待している」

獅子園はそう言って探索者を送り出す。

47. 伊角 兜からの電話

― 伊角の願い ―

電話に出れば、伊角はいつもの調子で「久しぶりだなぁ!」と明るい声で話し始める。

伊角

「いやぁすまなかった!私も少し仕事に手間取っていてね。やっと落ち着いたから連絡したんだ。久しぶりだけど、時間が無いから本題に入るぞ。これから、獅子園長官から嘉羽 羊介を立川拘置所に移送する指示が出るだろう。だが、恐らく獅子園長官はこの間に嘉羽を抹殺するつもりだ。君にこれを阻止して欲しいんだ」

大概の場合、何を急に言い出すんだと疑念をぶつけることになるだろう。
すると、伊角はこれまでになく真剣な声色になり、改めて自身の願いを伝える。

伊角

「警察関係者の犯罪の多くがもみ消され、以降何食わぬ顔で勤務を続けていることは、もう知っているよな。そしてそれが全て獅子園長官による謀略の一端であることも。クローン技術規制法があるにもかかわらず、厚生労働省が黙っていたのは、大臣は既に死んで入れ替わっていたからだ。他にも、要件を満たす主要政治家は既に手遅れだろうな。獅子園長官が作り出したクローンは、主体性を低下させられている。これは、自身で思考する力を奪われた、操り人形に他ならない。このままでは、政府関係者は徐々にクローン人間と入れ替わり、国に完全管理されたディストピアが出来上がってしまう。私は、これを止めるうえで嘉羽の力を利用することにした。故に、嘉羽を護衛して欲しいというのは、指令ではなく私の個人的な願いだ。よって、嘉羽を守るかどうかは君に任せる」

この願いに対し、この場で回答せずとも良いし、却下しても良い。
どのような返答であっても伊角が探索者を攻めることは無い。
しかし、聞き届けるというのであれば、伊角は上司としてではなく、対等な者として礼を言う。

伊角

「まぁ、利用するとか格好つけて言ってみたが、嘉羽くんからしたら私の行動も計算の内かもしれないがね。全く…人のままあの頭脳とは恐れ入る…」

独り言のようにそう呟くと「それじゃあ任せたぞ」と言って通話は切られてしまう。

48. 東京拘置所

― 移送開始 ―

いずれの場合も、探索者達は合流して東京拘置所に向かうことになるだろう。
特別収容エリアは、いつにもまして厳重に警備されているようだ。
嘉羽は、手錠で拘束されながらも、堂々と落ち着いた様子で探索者を迎える。

嘉羽

「待ってました。{HO1}さん、{HO2}さん。それでは行きましょうか」

そう言って、大人しく探索者達に連行される。

49. 首都高:板橋区近辺

― 移送直後 ―

嘉羽の移送は車になる。
東京拘置所から立川拘置所までは、首都高と中央自動車道を乗り継いで約90分掛かる。
道中、目敏い探索者であれば、尾行する2台の車に気付くことができるかもしれない。
片方の車には複数の刑事、もう片方にはヘカートと現時点で生存してる私兵達であることが分かって良い。

さらにヘカートが乗っている車を注視すれば、ヘカートが探索者達が乗る車に向けてSRを構えているのが分かるかもしれない。
この場合、嘉羽の殺害を決行するのであれば、妨害は確実であると推察できていい。

いずれにしても、殺害しない方針で固まっている場合、もしくは機を窺っていたり、殺害を迷うなどして時間が経過すると、嘉羽の方から困ったような苦笑いで探索者達に問いかけてくる。

嘉羽

「早く殺さなくていいんですか?走行中の高速道路なんて絶好の機会、もう来ないかもしれませんよ?殺すつもりが無いのなら何か話しましょうよ…。緊迫した空気のまま暇なのはキツいです」

この時、探索者達が望めば、嘉羽に質問をすることができる。
暇であることと、もう嘉羽の計画の最終段階であることから、普段より多く情報を出す。

想定される質疑応答一覧

Q.結局何が目的だ?
A.「いつも通り、商売敵をつぶしに来ました。いや、今回は害虫駆除ですかね。日本警察がなにやらうるさいので、巣ごと壊してしまおうと思います」
Q.なぜ日本警察だけ?お前を追ってる警察組織は世界中にあるだろう?
A.「人間による行いでは無いからです」
Q.上記について詳しく
A.「詳しくと言われても…。あなた達のトップが人間ではなく神だからとしか言いようがありませんね」
Q.何言ってんの?
A.「疑いたくなる気持ちはわかりますが事実です。『赤の女王』と呼ばれてきた彼女は、女王、参謀、為政者の妻、企業の長、女優、等の政治的影響力の強い者として様々な形で歴史の節々に現れて暗躍しています」
Q.だからと言って何故殺すの?
A.「僕が人間だからです」
Q.神だとしたら勝てなくない?
A.「僕が‘‘神‘‘と言っているのは超越者として扱っているのではなく、ただの普通名詞としてそう呼んでいるだけです。虫とか草と言っているのと大して変わりません」

武器商人の哲学

探索者達の質問が終わると、反対に嘉羽から探索者へ質問される。

嘉羽

「皆さんは、刑法を絶対のように崇め、怯え、縋っていますが、神話になぞらえれば、法とは神が人間に科した縛りです。では、なぜ古代の神は法を定めたのだと思いますか?」

以前に獅子園から話しを聞いている探索者達は、何かしらの回答を用意できるかもしれない。
しかし、獅子園と嘉羽の見解は大きく食い違っている。

嘉羽

「答えは、人間が怖いからです。正確には、人間の持つ上限の無い悪意を神々は脅威に思った。原始時代は暴力、近大は戦争。人は同種を殺すために進化していきます。歴史的にも、最新技術は最初に軍事、次点で医療に応用されています。つまり、治すより殺す方が好きなんです。木を削ってこん棒を持ち、鉄を加工して剣を持ち、火薬を利用して銃を持ち、原子力を利用して核兵器を持つ。神はこの際限のない悪意に怯え、法を作ったんです。まるで殺しが理から外れているように、奪ってはいけないと刷り込むように。いいんですよ本当は。殺したって、奪ったって。だから、そろそろ神には死んでもらって人には目を覚ましてもらわないと、商売あがったりなんですよね」

会話を終えた頃に、探索者達の車は立川拘置所に到着する。

嘉羽を殺害する

嘉羽の殺害を試みる場合、技能の成否にかかわらず、ヘカートの狙撃によってタイヤやハンドルが破壊され、制御不能になった車が壁や中央分離帯に激突することで阻止されてしまう。

すると、もう一つの尾行車両がヘカートの乗る車にぶつかり、両車とも停止する。
この時、片方の尾行車両から出てくるのは、これまでの事件を経て生きている嘉羽の私兵達だ。
そして、もう一車両から出てくるのは3名の刑事だ。
音子伽がいる場合は、これまでの探索から本人ではなく検体であることが分かって良い。

この時点で探索者達の方針が割れている場合があるかもしれない。
以降、嘉羽の殺害を目標とする探索者を【獅子園側】、
嘉羽の殺害阻止を目標とする探索者を【嘉羽側】と記載する。

刑事達は【獅子園側】の探索者に耳栓を渡してくる。
「これをしっかり着用してください」とだけ言うと、彼らの腕にある黒い切り傷が、徐々に広がっていくのが分かる。
次第に、辺りに濃厚な腐敗臭が漂いはじめ、完全に変色した腕はゴムの様に垂れ下がり、手のひらは水掻きに変形していく。

刑事だった異形達は、大きく息を吸うと同時に奇声を発する。
ルルとヘカートは、この奇怪な攻撃を想定しておらず、三半規管を揺らされているようだ。
ユハは過去の経験から耳を塞いでいる。
【嘉羽側】の探索者は、DEX×5に成功することで耳を塞ぐのが間に合うかもしれない。
嘉羽は奇声を発することが予測できており、余裕で間に合っている。
耳栓が間に合わなかった私兵達は、後の戦闘で全技能が半分になる。

宿主(刑事)と【獅子園側】、生き残りの私兵と【嘉羽側】による銃撃戦が開始される。

【戦闘】刑事 vs 武器商人

3R経過したところで、ヘリコプターの飛行音が近づいてくるのが分かる。

嘉羽

「時間切れです。獅子園をやれなかったのは残念ですが、失敗するのも人間らしくていいでしょう?それでは、次は戦場で会いましょう」

そう言って、嘉羽と私兵達は救援に来た戦闘ヘリに乗り去ってしまう。
この時【嘉羽側】の探索者がいる場合、「一緒に行きますか?」と手を差し伸べられる。
手を掴むことで、共に戦線離脱することができるだろう。
戦闘ヘリを打ち落とそうとする探索者がいるかもしれないが、同乗者に米海軍兵を複数名確認することができる。
既に銃口は探索者達に向いており、不審な動きをしたら撃たれると分かって良い。

嘉羽に逃げられたあと、数十分たてば応援がやってくる。
負傷している【獅子園側】の探索者がいる場合、すぐに警察病院へ搬送される。
【嘉羽側】の探索者が残っている場合、応援の警察官に取り押さえられるだろう。
END:Aに進む

50. 立川拘置所

― 空爆 ―

両者が殺さない方針で一致していれば、嘉羽との会話を終えた頃に到着するだろう。
そこには、遠巻きに多くの警察車両と300人程の警察が探索者達を待ち構えている。
全員が、遮蔽や車両を盾に銃を構えて臨戦態勢であることが分かって良い。
その様子を見た嘉羽は薄い笑みを浮かべて嘲笑する。

嘉羽

「この期に及んでまだ神は僕を、いや人を恐れぬふりをしているようですね。では、少々客は少ないですが武器展示会でも始めましょうか!」

直後、探索者の頭上を縦長の影が轟音と共に通過する。
それは、紛れもないミサイルだ。
ミサイルは、拘置所を陣取っている警官たちの中心に着弾し、衝撃と熱によって50d6のダメージを半径500mにいる者達に与える。

立川拘置所近辺は、たった一撃で火の海に変わる。
嘉羽は「行きましょうか」とだけいうと、車から降りて着弾地点へ歩き出す。

着弾地点に向かえば、奇跡的に生き残った警察官が1D5人しかいないことが分かる。
辺りは黒い水たまりと、血と肉片による地獄絵図が広がっている。
この中には、クローンではない、正真正銘の真人間もいたのだと理解してしまうだろう。
また、怪物以上に多くの人間を一撃で破壊する兵器に対し戦慄することになる。
{HO1}:【SANc 1/1D6】
{HO2}:【SANc 1D3/1D10】

そして、生き残った警察官がヨロヨロと立ち上がるのと同時に、およそ日本の光景とは思えぬ火の海の後方から、獅子園 翆禅が現れる。

獅子園は、火の海となった立川を見てもなお、顔色一つ変えずにまっすぐ歩みを進める。
一方、嘉羽もかつて人だった肉片を躊躇なく踏みつぶしながら歩みを進める。
両者の声が届く距離まで近づくと、獅子園が語り掛けてくる。

獅子園

「私は、君達人間がいずれ君のような化物を生み出すことを予見していた。大いなる神々が等しく人間を侮るなか、私だけが常に興味を示した。然して、君の誕生は私の予見の的中を意味する。人は、我々が管理しなければ、神々を脅かす者となるだろう。ただ一人、歪な進化を遂げた人間…。嘉羽くん。君の存在を消すことで、私は人の管理を盤石のものにしよう」

獅子園の口ぶりは、まるで自身が人間では無いと明かしているようだ。
直後、探索者達を追尾していた車の一台が獅子園の背後に車が止まり、中から3人の刑事が降りてくる。
生き残りの警察官が、獅子園の周りに集まると、メキメキと体を異形に変化させてく。
【SANc 1/1D3】

嘉羽はその様子を見ても、顔色一つ変えずに獅子園に返答を返す。

嘉羽

「僕は常にあなたが邪魔でした。全ての神が定型的な動きをするだけのウドであるのに、あなただけは人間と同じ悪意を以って立ちはだかる。ただ一柱の歪な神。ニャルラトテップ。あなたを消すことで、人間は真に地球の支配者となるでしょう」

探索者達を追尾していた車の一台が獅子園の背後に車が止まり、中から完全武装した生き残りの私兵達が降りてくる。
ヘカートは冷静に、ルルとユハは明確な殺意を以って対峙しているだろう。

51. 最終決断

― 探索者達の選択 ―

探索者達は、ここでどちらを支持するのかを決めなくてはならない。
獅子園と嘉羽は、まるで探索者達に問うように、戦闘前に最後の言葉を交わす。

獅子園

「人は!神に管理されてこそ幸福なのだ!真の秩序のために死ね!」

嘉羽

「いい加減、神はその玉座からおりるべきだ。真の自由のために死んでください」

探索者は、嘉羽と獅子園のどちらを支持するか決めなくてはならない。

スチルイラスト: still4.png

➀獅子園を支持する

探索者達は、獅子園を支持することにした。
それは、悪意による暴力よりも、管理された社会を望んだのかもしれないし、嘉羽の言動に生理的嫌悪を覚えたからかもしれない。
いずれにしても、警察である探索者達は犯罪者である嘉羽を放っておくべきではない。

獅子園

「賢明だよ君たち。あれはもう人と呼べるような存在ではない。彼を打倒して、平坦で平和な法治国家にしようじゃないか」

嘉羽の私兵達は、各々の銃器を持って探索者達と対峙する。

【戦闘】嘉羽 羊介&私兵

➀春日が生きている場合

獅子園の体がボコボコと脈打ち、その姿は巨大に変貌していく。

獅子園

「いいタイミングだよ春美。保険はかけておくものだな」

そう言う獅子園の声は、もう人間の者とは思えない、おぞましい音に変化している。
その姿は、巨大な人間型をしているが足が三本あり、一対のかぎ爪の生えた腕がある。
顔があるべきところには、一本の長大な血のように赤い触手が伸びている。
本来であれば、悍ましく一瞬で正気を失ってしまいそうな見た目だが、この異形の神が自身の後ろ盾であると考えることができる探索者は、喪失の値が5分の1になる。
【SANc 1D10/1D100】

血塗られた下のような頭を持つその異形は、頭頂部の触手で私兵達を薙ぎ払う。
10d6のダメージを与えることで、余程幸運な者でなければ、命を奪われるだろう。
対峙しているのは嘉羽のみとなる。

嘉羽が落胆したようにため息をつき「そううまくはいきませんね…」と呟くと、戦闘機の飛行音が聞こえる。
直後、二機の戦闘機から爆撃が始まる。
血塗られた舌は、爆撃により20D6×2のダメージを受け、大きな悲鳴と共にその姿を蠢く陰に変化させる。
再び悍ましい姿を見たこと、その異形の神が敗北した姿を見た探索者達は正気度喪失が起こる。
【SANc 1/1D10】

影だまりは、ウゾウゾと蠢きながら宙を舞い、夜の闇に消えていく。

獅子園

「こんなものでやられはしないでしょう。仕切り直しですね」

そう言うと、傍に止まった黒いスモークの貼られた自動車の助手席に乗り込む。
探索者が銃弾を放っても、嘉羽は最小限の動きで全てかわしてしまう。
嘉羽を乗せた車はこの場から離脱していく。
そこには、多くの死体と探索者達だけが残るだろう。
END:Bに進む

➁春日が死んでいる場合

獅子園の体がボコボコと脈打ち、その姿が変貌する。
背には、恐ろしいコウモリの翼が生え、髪は蛇の束に見える。
残忍そうな牙を持つ、女の姿に変わる。
赤い血濡れの女王の姿を見た探索者は正気度喪失が起こる。
【SANc 1/1D8】

赤の女王の姿を見た30m以内にいる敵対者は、意思に反して武装解除してしまい、攻撃行動が格闘技能しかとれなくなる。

この場合、引き続き戦闘が継続する。
戦闘に勝利すれば、赤の女王は気付けば元の獅子園の姿に戻っている。
獅子園は、嘉羽の遺体を見下ろし、最後に皮肉を言う。

獅子園

「ただ一人生まれた異形の人よ。その君が人間を語るとは滑稽だな。私が統治する地球では、もう君のような者が生まれることは無いだろう」

後に応援の刑事と自衛隊が到着し、手負いの探索者と獅子園を運ぶ。
END:Cに進む

➁嘉羽を支持する

探索者達は、嘉羽を支持することにした。
それは、傀儡になることを良しとしないからかもしれないし、人ではない異形に手綱を握られる生理的嫌悪かもしれない。

私兵達は探索者を歓迎する。
ルルがいれば安堵したように迎え入れ、ユハがいれば無表情ながらも珍しく自発的に口を開く。
ヘカートは{HO1}の実力を見極めて歓迎する。

ルル

「よかったよ~~~!あっちいっちゃたらどうしようかと!」

ユハ

「おかえりなさい」

ヘカート

「日本のポリスは、戦闘に特化していない代わりにバランスが良いな。背中は任せたぜぇ?なんつってなぁ。ヘッヘッヘ」

手短に共闘を喜んだ後、嘉羽は探索者と私兵を集めて、いつも通り殲滅の作戦を伝える。

嘉羽

「害虫駆除の時間です。彼女は今人間体ですが、側を壊せば元の姿になるでしょうどう変化するかは文字通り神のみぞ知るという感じですねびっくりしないように心構えしておきましょう。相手の戦闘力が想定以上だと判断された場合5分(10ターン)耐えてください。無人航空爆撃機が、さっき横須賀を離陸しました。間に合えば、どのような怪物であれど耐えることはできないでしょう。それでは、状況を開始してください」

私兵

「「「了解」」」

獅子園と異形に変化した生き残りの刑事が探索者達に立ちはだかる。

【戦闘】獅子園・宿主×α

➀春日が生きている場合

獅子園の体がボコボコと脈打ち、その姿は巨大に変貌していく。

獅子園

「いいタイミングだよ春美。保険はかけておくものだな」

そう言う獅子園の声は、もう人間の者とは思えないおぞましいものに変化している。
その姿は、巨大な人間型をしているが足が三本あり、一対のかぎ爪の生えた腕がある。
顔があるべきところには、一本の長大な血のように赤い触手が伸びている。
その様子は、およそこの世の者とは思えない衝撃を探索者達に与える。
【SANc 1D10/1D100】

血塗られた下のような頭を持つその異形は、頭頂部の触手で私兵達を薙ぎ払う。
広範囲な攻撃は簡単に避けられるものではない。
10D6のダメージを受けることで、幸運な者でなければ、唐突に命を奪われてしまうだろう。

➁春日が死んでいる場合

獅子園の体がボコボコと脈打ち、その姿が変貌する。
背には、恐ろしいコウモリの翼が生え、髪は蛇の束に見える。
残忍そうな牙を持つ、女の姿に変わる。
赤い血濡れの女王の姿を見た探索者は正気度喪失が起こる。
赤の女王の姿を見た30m以内にいる敵対者は、意思に反して武装解除してしまい、攻撃行動が格闘技能しかとれなくなる。

この場合、引き続き戦闘が継続する。

共通:10ターン経過

10ターン経過すれば戦闘機の飛行音が聞こえる。
直後、二機の戦闘機から爆撃が始まる。
血塗られた舌は、爆撃により20D6×2のダメージを受け、大きな悲鳴と共にその姿を蠢く陰に変化させる。
再び悍ましい姿を見た探索者達は正気度喪失が起こる。
【SANc 1/1D10】

影だまりは、ウゾウゾと蠢きながら宙を舞い、夜の闇に消えていく。

嘉羽

「お疲れさまでした。よく耐えてくれましたね」

嘉羽は、生きている探索者と私兵を労う。
生きていれば、私兵達は探索者と共に喜ぶだろう。

ルル

「いえーーっす!何が神だ気持ち悪いんだよバーカ!」

ヘカート

「ふぃ~…強ぇよ全く。もうコリゴリだ」

ユハ

「…疲れました」

戦いを終えてしばらくすれば、一台のスーモクを貼った車が着く。
中から出て来るのは、外事課の課長の伊角だ。

伊角

「お疲れのところ悪いけど、応援が来ちゃうからここから離れるよ!」

探索者達は早急に伊角の車で現場を離脱することになる。
END:Dに進む

エンディング

戦場となった立川拘置所近辺は、しばらく封鎖されることになる。
嘉羽の私兵達が解き放った元受刑者や被疑者は、目立った事件を起こした者から順に再逮捕されていくが、全てを捕まえるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

先の戦闘は目撃者が誰もいない。
探索者達は、どの結末になったとしても後の進退を自身で決めることができる。
しかし、公務員である以上、退職届の後に即やめる等という事はできない。
{HO2}は、脱獄者達が起こす殺人・暴行事件の取り締まりに追われることになるし、
{HO1}は、長官の指令から警視庁預かりになっているが、結末によっては公安に戻されることになり{HO2}とのバディは解消されることになるだろう。
後は、探索者達が誰に付き、誰が生き残っているかで、それに相応しい結末を迎える。

END:A

移送中の嘉羽殺害に失敗した場合はこの結末を迎えることになる。

行方を眩ませた嘉羽 羊介の安否は、世界ニュースですぐに知ることになるだろう。
その後、国外へ出た嘉羽は、通常通り戦地を渡り歩いて、戦場の火種を大きくしているようだ。
しかし日本警察への破壊工作を阻止したことで、国内の銃刀法違反や凶悪犯罪発生率は大幅に下がることになる。
嘉羽が日本から撤退したことで、銃器の調達に苦心した指定暴力団の無茶な密輸により、多くの暴力団幹部の逮捕ニュースが連日報道されるだろう。

ある日、探索者達は獅子園長官に呼ばれることになる。
呼ばれた会議室には、探索者達を合わせて47人の刑事がいる。
獅子園は、全員が揃うと大がかりな人事異動について語る。

獅子園

「君達には、各都道府県警の本部長に就任してもらう。私が選任した選りすぐりの刑事だ。文句はあるまい?前例のない異動だが問題はない。異を唱える者は既に警察内部には一人もいないからだ。君達は、日本の警察の内情を知る唯一の純人間たちだ。働きに期待している」

会議室に集められた者に、驚いている者は一人もいない。
探索者達を含めて、既に全てを知ったうえで獅子園に従っているのだろう。

「君達が賢明であり続けるなら、私は君達に羊飼いの愉悦を約束しよう」

END:B

獅子園と私兵が死に、嘉羽が生き残っている場合はこの結末を迎えることになる。

殉職したと公式発表された警察庁長官のニュースは大きく世間を騒がせる。
次長が長官代理を務めることで、警察の機能が停止することは無かった。
日本警察の安定性を他国に見せつけることになったようだ。

公安部課長の伊角は、立川の爆撃事件で嘉羽の海外逃亡を幇助した疑いで起訴された。
しかし、取り調べの際、ここ数年の記憶が一切ないと供述しており、精神鑑定の結果、心神喪失の事由により刑事責任能力なしと判断され無罪となる。
いずれにしても、精神病院に長期の入院が義務付けられることで、警察は辞することになってしまうだろう。

行方を眩ませた嘉羽 羊介は、立川での空爆事件の後に国際指名手配となった。
しかし、目撃情報に比例して、嘉羽が関与したと疑われる不正武器取引の事件も起こるだろう。

警視庁では、嘉羽が国際指名手配になったことで捜査本部を立ち上げることができた。
今日も、国内外から嘉羽が流した武器に関連した情報が多くよせられている。
みなが慌ただしくしているなか、探索者は事件主任に呼び出され新人の紹介をされる。
その男は、切れ長の目をした癖毛の青年だ。

新人

「獅子園 真弥です。本日からこちらの捜査本部に配属になりました。宜しくお願いします」

主任は「前長官の息子さんだ。お母様に似て優秀だから助かるよ」と、彼の背をトントンと叩いている。探索者は、獅子園に息子などがいるはずが無いと分かっていい。
主任が立ち去ると、獅子園は小さい声で呟く。

「引き続きよろしく頼むよ」

END:C

嘉羽 羊介死亡ニュースは世界的に報じられた。
その衝撃的なニュースは、日本だけでなく世界情勢を大きく変えることになる。
日本では、銃器の調達に苦心した指定暴力団の無茶な密輸により、多くの暴力団幹部の逮捕ニュースが連日報道される。
海外では、中東の内紛は終息に向かい、多くの国が軍事予算の縮小が可決され、懸念されていた戦争の火種は残さず消されることになる。

ある日、探索者達は獅子園長官に呼ばれることになる。
呼ばれた会議室には、探索者達を合わせて47人の刑事がいる。
獅子園は、全員が揃うと大がかりな人事異動について語る。

獅子園

「君達には、各都道府県警の本部長に就任してもらう。私が選任した選りすぐりの刑事だ。文句はあるまい?前例のない異動だが問題はない。異を唱える者は既に警察内部には一人もいないからだ。君達は、日本の警察の内情を知る唯一の純人間たちだ。働きに期待している」

会議室に集められた者に、驚いている者は一人もいない。
探索者達を含めて、既に全てを知ったうえで獅子園に従っているのだろう。

「君達が賢明であり続けるなら、私は君達に羊飼いの愉悦を約束しよう」

END:D

獅子園が死に、嘉羽と私兵達が生き残っている場合、この結末を迎えることになる。

警察内部で行われていたクローン実験は、後に来日した米軍特殊部隊が秘密裏に研究所の機能を破壊・停止させた。
伊角率いる警視庁の公安部は、警察内部で行われていたクローン実験について公けにしない方針のようだ。世間に混乱をもたらさない為の判断だろう。

既に生み出されてしまったクローン体に関しては、幸いにも全員身寄りがない為、強制処分などは行われなかったようだ。
伊角曰く「これくらいなら、ちょっと真面目な警察・官僚ができた程度」とのことだ。

殉職したと公式発表された警察庁長官のニュースは大きく世間を騒がせるだろう。
次長が長官代理を務めることで、警察の機能が停止することは無かった。
日本警察の安定性を他国に見せつけることになる。

この場合{HO2}は刑事部捜査一課に、{HO1}は公安部外事課に戻ることになるが、交流を断つ必要は無い。
お互いに、情報共有等をすることは、後の諜報活動でも有意義な結果をもたらすだろう。

刑事部

警視庁では、嘉羽が国際指名手配になったことで捜査本部を立ち上げることができた。
今日も、国内外から嘉羽が流した武器に関連した情報が多くよせられている。
みなが慌ただしくしているなか、探索者は事件主任に呼び出され新人の紹介をされる。
その男は、切れ長の目をした癖毛の青年だ。

新人

「獅子園 真弥です。本日からこちらの捜査本部に配属になりました。宜しくお願いします」

主任は「前長官の息子さんだ。お母様に似て優秀だから助かるよ」と、彼の背をトントンと叩いている。探索者は、獅子園に息子などがいるはずが無いと分かっていい。
主任が立ち去ると、獅子園は小さい声で呟く。

「引き続きよろしく頼むよ」

公安部

{HO1}は、伊角から東名高速のサービスエリアに呼び出される。
足並みが揃っているなら{HO2}もついて行っていい。
そこには、嘉羽を含めた私兵達、夏目、音子伽(生きていれば)がいる。

伊角

「こっちこっち!すまないねこんなところに呼び出して。文句なら彼に言ってね。嘉羽くんと会うのは苦労するよ全く。普通のレストランでご飯食べながら話したいのに」

そう軽口を叩きながら探索者を招く。
探索者が各人物のその後を質問すれば、それぞれが回答してくれる。

伊角

「夏目ちゃんと音子伽くんは、公安で預かることにしたよ。と言っても、嘉羽君に着いて行ってもらうんだけどね。日本に被害が及ぶ可能性のあるテロ組織の情報などを共有してもらう目的だ。誰かさんのせいで、腕の立つガンマンとボマーになっちゃったしね。嘉羽くんにも了承が取れている」

とんでもない采配だが、人外の被害によって罪を着せられた彼女たちを救う手立てが、他に無さそうだと考えていい。

嘉羽

「僕は相変わらず仕事に勤しんでますよ。商売の傍ら、人外排除の慈善事業もしますけどね。武器ばっか売ってたら印象悪いですから」

これ以上印象下がることなんてあるのか?と思っていい。

ルル

「私はヨースケについてくよ。歳が近い友達と可愛い妹もできたしね!あっさり解雇された時は爆破してやろうかと思ったけど、よく考えたら細かいこと教えてくれないのはいつものことだからもういいや!」

秋手の爆破技術のことを尋ねれば「私が教えたよ?」とあっさり答えるし、ユハを脱出させる際の爆弾について尋ねれば「ナイショ~」と誤魔化される。

ヘカート

「前にも言ったが、俺は仕事人間だからな。ヨースケとの契約がある限りついてくさ」

アイホート降臨時の爆撃や、児童園脱出時の狙撃、旅客機墜落後の狙撃に関して尋ねれば、「ん?あぁそれは俺だなぁ」と答える。
垂直尾翼の破壊については「あれは悪かったな。お前らがいるなんて知らなかったからよぉ」と言って、バツが悪そうにする。

ユハ

「僕も嘉羽さんに付いていきます」

無理やりじゃないか?とか嘉羽に脅されてないか?等と尋ねれば「嘉羽さんには本当いやりたいことをしろと言われました」答える。

嘉羽についていく

探索者達によっては、嘉羽の私兵として付いていきたいという場合があるかもしれない。

{HO1}であれば、夏目や音子伽と同様に、公安に所属したまま、危険情報を流す役割で認可される。既に1年の付き合いがある為、歓迎されるだろう。

{HO2}であれば、獅子園に目を付けられていることから、警察を辞めて本格的に転職するべきだろう。ヘカートが雇用を歓迎してくれる。

ヘカート

「日本の警察は銃を撃たないんだって?だったらまずはそこからだな。まぁ大丈夫だ。超凄腕軍人の俺に掛かれば、中学生だって半日でプロにしてやれるさ」

星の智慧派

彼らの進退を確認すると、嘉羽が日本にいる理由を話す。
観光ではなく仕事で来ているようだ。

嘉羽

「ニャルラトテップはまだ死んでいません。腐っても神という事でしょう。非常にしぶとい。彼の息が掛かった民星党議員によって、自衛隊・在日米軍への思いやり予算の大幅縮小が提言されています。恐らくこのままでは可決されるでしょう。どこまで行っても僕の商売の邪魔をする気みたいですね。民星党は『星の智慧派』というニャルラトテップを信仰する宗教団体が母体となっていますので、まずはここを潰します。作戦は・・・」

嘉羽は、PMCに的確な指示をする。
これまで彼に関わってきた者なら、作戦の成功を疑う者はいないだろう。

「さぁ、人間の悪意の力を神に見せつけてやりましょう」